夏の序曲
第1話 突然の電話
夜、自室の机には、しおり代わりに赤ペンが差し込まれた数学の問題集が置かれている。笹原悠斗は椅子に深く腰を下ろし、計画表に目を落とした。
(このペースなら、今日中にこの過去問集が一通り終わる…よな。)
意気込みとともに鉛筆を手に取るが、視線は問題集を通り越し、机の端に置かれたトランペットケースに吸い寄せられる。
部活の練習で気になったフレーズが、頭の中で再生され続けていた。
(もっと滑らかに音を繋げられるはずなんだけど…。いや、今は数学に集中だ。)
自分に言い聞かせて問題集を開いたその時、机の隅に置いたスマートフォンが震えた。画面には「星乃紗彩」の名前が表示されている。
紗彩――中学時代のブラスバンド仲間。最後に会話を交わしたのは、中学最後の文化祭の準備で忙しかった頃だ。
「こんな時間に?」
首をかしげながら電話を取ると、明るい声が耳に飛び込んできた。
「悠斗!元気?久しぶり!」
「久しぶり、どうしたんだ急に?」悠斗は少し驚きながら問い返す。
「実はね、お願いがあるんだ。」
その一言で悠斗の眉間に皺が寄る。紗彩の『お願い』が、簡単な話のはずがない。
「私の後輩で、美玖って子がいるんだけど、悠斗の部活にいる背が高くてトロンボーンを吹いてる子に会いたいんだって。」
「背が高くてトロンボーン?……米村錬のことか?」
紗彩の説明を聞きながら、悠斗は苦笑を浮かべる。
「あ、米村錬くんていうのね!春の合同演奏会で見たらしくて、すごく気になったみたい。」
電話越しに紗彩の弾む声が伝わってくる。
「で、その美玖って子はなんで錬に会いたいんだ?」
「演奏がかっこよかったって言ってた。それに、見た目もちょっと気になったみたいで。」
「なるほどね。」悠斗は思わず小さく笑った。
「それでさ、手伝ってほしいんだけど……カップルのふりをして二人を引き合わせるっていうのはどう?」
「……カップル?」
思わず声が大きくなり、机の上の鉛筆が転がった。
「だって、そうすれば自然に誘導できるでしょ?」
紗彩の声は冗談のような軽さだったが、その裏に確固たる自信が漂っていた。
悠斗は額に手を当て、ため息をつく。
「本気で言ってるのか?」
「もちろん!」
即答する紗彩の声に、悠斗は言葉を失った。そして、不思議な感覚に襲われる。普通だった日常が、今、どこかへ消えていく気がした。
「分かったよ。」
悠斗がそう答えると、紗彩の声は弾むように明るくなった。
「やった!じゃあ、明日の放課後、美玖と待ち合わせね!」
(このペースなら、今日中にこの過去問集が一通り終わる…よな。)
意気込みとともに鉛筆を手に取るが、視線は問題集を通り越し、机の端に置かれたトランペットケースに吸い寄せられる。
部活の練習で気になったフレーズが、頭の中で再生され続けていた。
(もっと滑らかに音を繋げられるはずなんだけど…。いや、今は数学に集中だ。)
自分に言い聞かせて問題集を開いたその時、机の隅に置いたスマートフォンが震えた。画面には「星乃紗彩」の名前が表示されている。
紗彩――中学時代のブラスバンド仲間。最後に会話を交わしたのは、中学最後の文化祭の準備で忙しかった頃だ。
「こんな時間に?」
首をかしげながら電話を取ると、明るい声が耳に飛び込んできた。
「悠斗!元気?久しぶり!」
「久しぶり、どうしたんだ急に?」悠斗は少し驚きながら問い返す。
「実はね、お願いがあるんだ。」
その一言で悠斗の眉間に皺が寄る。紗彩の『お願い』が、簡単な話のはずがない。
「私の後輩で、美玖って子がいるんだけど、悠斗の部活にいる背が高くてトロンボーンを吹いてる子に会いたいんだって。」
「背が高くてトロンボーン?……米村錬のことか?」
紗彩の説明を聞きながら、悠斗は苦笑を浮かべる。
「あ、米村錬くんていうのね!春の合同演奏会で見たらしくて、すごく気になったみたい。」
電話越しに紗彩の弾む声が伝わってくる。
「で、その美玖って子はなんで錬に会いたいんだ?」
「演奏がかっこよかったって言ってた。それに、見た目もちょっと気になったみたいで。」
「なるほどね。」悠斗は思わず小さく笑った。
「それでさ、手伝ってほしいんだけど……カップルのふりをして二人を引き合わせるっていうのはどう?」
「……カップル?」
思わず声が大きくなり、机の上の鉛筆が転がった。
「だって、そうすれば自然に誘導できるでしょ?」
紗彩の声は冗談のような軽さだったが、その裏に確固たる自信が漂っていた。
悠斗は額に手を当て、ため息をつく。
「本気で言ってるのか?」
「もちろん!」
即答する紗彩の声に、悠斗は言葉を失った。そして、不思議な感覚に襲われる。普通だった日常が、今、どこかへ消えていく気がした。
「分かったよ。」
悠斗がそう答えると、紗彩の声は弾むように明るくなった。
「やった!じゃあ、明日の放課後、美玖と待ち合わせね!」
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