夏の序曲
第10話 ロビーにて
定期演奏会が終わり、部員たちはロビーに出て、それぞれ来場者や知り合いと話していた。悠斗も少しだけ談笑に加わったものの、すぐに視線を巡らせる。次の計画を進めるためには、まず錬を捕まえなければならない。
だが、錬は部長の木村遥と真剣に話し込んでいた。悠斗が近づいてみると、どうやらコンクールの自由曲選びについて議論しているらしい。
「うちは金管が強いから、もっと金管の良さが活かせる曲を選ぶのもいいかもしれないわね。フルートのソロも入れたいところだけど。」
木村が譜面を手にしながら言うと、錬は少し考え込むように頷いた。
「確かに。ただ、『バラの謝肉祭』はもう練習が進んでる分、アドバンテージもありますよね。」
「そうね。でも、コンクールだから、技術をアピールできる少し難しい曲に挑戦するのもアリだと思うの。」
「逆に、難易度を抑えて完成度を追求する方向も考えるべきじゃないですか?」
二人のやり取りは次第に熱を帯び、悠斗が入り込む隙はどこにもなかった。
(なんでこんな大事な話を今するんだよ…。)
悠斗は焦りを隠しきれず、何とか話に割り込もうとした。
「えっと、どの曲にするにしても、金管セクションが目立てるアレンジがあればいいんじゃない?」
木村が少し驚いた表情で振り返り、軽く頷いた。
「それも一理あるわね。」
ようやく会話に加わることができたものの、話の流れはまだ続きそうだった。そのとき、突然背後から明るい声が響いた。
「悠斗!」
振り返ると、紗彩が美玖を連れて颯爽と現れた。悠斗がぎょっとしている間もなく、紗彩はにっこりと笑いながら悠斗の腕に自分の手を絡める。
「もう、待っててって言ったでしょ!」
「あ、ああ…。」悠斗は戸惑いながらも、状況を察してすぐに表情を整えた。
木村はその様子に気づき、軽く微笑んだ。
「じゃあ、私はこれで失礼するわね。」
空気を読むように立ち去る木村の背中を見送り、悠斗はほっと息をついた。
紗彩は悠斗の腕を軽く引きながら、自然な流れで錬と美玖の方を向いた。錬が不思議そうに眉を上げたのを見て、紗彩が軽やかに切り出した。
「そうだ。私の後輩を紹介するね。この子、美玖っていうの。」
美玖は真っ赤な顔をしながら、かろうじて会釈をした。
「ど、どうも…。えっと…その…。」
錬は戸惑いながらも、礼儀正しく答える。
「どうも、米村錬です。トロンボーン吹いてます。」
「…あ、あの!すごく素敵でした!」
勢いよく飛び出した美玖の言葉に、錬は少し驚いたように目を丸くした。
「ありがとう。」
しかし、美玖はそれ以上何も言えなくなり、顔をさらに真っ赤にして沈黙してしまう。悠斗が小さくため息をつくと、紗彩が小さな声で、そっと助け船を出した。
「ほら、美玖。名前を覚えてもらったし、これからが大事なんだから。」
美玖は小さく頷くものの、舞い上がりすぎて言葉が出てこない。
紗彩は悠斗に意味ありげな視線を送る。
(とりあえず、今回はここまでで十分ってことね。)
悠斗は無言で頷き返し、錬と美玖を少しだけ取り残すように、その場を離れるふりをした。
(さて、これでどうなるか…。)
悠斗はちらりと錬の表情をうかがいながら、心の中で呟いた。錬の戸惑いと、美玖の高揚した様子が交錯する光景が、これから起こる展開への期待と不安を漂わせていた。
だが、錬は部長の木村遥と真剣に話し込んでいた。悠斗が近づいてみると、どうやらコンクールの自由曲選びについて議論しているらしい。
「うちは金管が強いから、もっと金管の良さが活かせる曲を選ぶのもいいかもしれないわね。フルートのソロも入れたいところだけど。」
木村が譜面を手にしながら言うと、錬は少し考え込むように頷いた。
「確かに。ただ、『バラの謝肉祭』はもう練習が進んでる分、アドバンテージもありますよね。」
「そうね。でも、コンクールだから、技術をアピールできる少し難しい曲に挑戦するのもアリだと思うの。」
「逆に、難易度を抑えて完成度を追求する方向も考えるべきじゃないですか?」
二人のやり取りは次第に熱を帯び、悠斗が入り込む隙はどこにもなかった。
(なんでこんな大事な話を今するんだよ…。)
悠斗は焦りを隠しきれず、何とか話に割り込もうとした。
「えっと、どの曲にするにしても、金管セクションが目立てるアレンジがあればいいんじゃない?」
木村が少し驚いた表情で振り返り、軽く頷いた。
「それも一理あるわね。」
ようやく会話に加わることができたものの、話の流れはまだ続きそうだった。そのとき、突然背後から明るい声が響いた。
「悠斗!」
振り返ると、紗彩が美玖を連れて颯爽と現れた。悠斗がぎょっとしている間もなく、紗彩はにっこりと笑いながら悠斗の腕に自分の手を絡める。
「もう、待っててって言ったでしょ!」
「あ、ああ…。」悠斗は戸惑いながらも、状況を察してすぐに表情を整えた。
木村はその様子に気づき、軽く微笑んだ。
「じゃあ、私はこれで失礼するわね。」
空気を読むように立ち去る木村の背中を見送り、悠斗はほっと息をついた。
紗彩は悠斗の腕を軽く引きながら、自然な流れで錬と美玖の方を向いた。錬が不思議そうに眉を上げたのを見て、紗彩が軽やかに切り出した。
「そうだ。私の後輩を紹介するね。この子、美玖っていうの。」
美玖は真っ赤な顔をしながら、かろうじて会釈をした。
「ど、どうも…。えっと…その…。」
錬は戸惑いながらも、礼儀正しく答える。
「どうも、米村錬です。トロンボーン吹いてます。」
「…あ、あの!すごく素敵でした!」
勢いよく飛び出した美玖の言葉に、錬は少し驚いたように目を丸くした。
「ありがとう。」
しかし、美玖はそれ以上何も言えなくなり、顔をさらに真っ赤にして沈黙してしまう。悠斗が小さくため息をつくと、紗彩が小さな声で、そっと助け船を出した。
「ほら、美玖。名前を覚えてもらったし、これからが大事なんだから。」
美玖は小さく頷くものの、舞い上がりすぎて言葉が出てこない。
紗彩は悠斗に意味ありげな視線を送る。
(とりあえず、今回はここまでで十分ってことね。)
悠斗は無言で頷き返し、錬と美玖を少しだけ取り残すように、その場を離れるふりをした。
(さて、これでどうなるか…。)
悠斗はちらりと錬の表情をうかがいながら、心の中で呟いた。錬の戸惑いと、美玖の高揚した様子が交錯する光景が、これから起こる展開への期待と不安を漂わせていた。