夏の序曲

第25話 おせっかい

コンクールが終わり、数日が経った昼休み。教室には生徒たちの笑い声が響き、悠斗は机に広げた問題集と格闘していた。隣の席の滝沢が、ペンを回しながら気楽そうに話しかける。
「お前、昼休みくらいは休めよ。ずっと勉強してたら、体壊すぞ。」
「別にいいだろ。やらなきゃヤバいんだから。」
悠斗は気にも留めない様子で答えたが、滝沢の視線がじっと彼を見つめていた。
「文化祭の時さ、紗彩って子と行動してたよな。あれ、結局どういうことだったんだ?」
唐突な言葉に、悠斗の手が一瞬止まったが、すぐに軽く肩をすくめた。
「別に、ただの部活絡みだよ。」
「ふーん。」滝沢は気のない声を出しつつも、視線を逸らさない。

「この前のコンクールの後、ロビーで紗彩さんと話してたろ?」
その言葉に、悠斗の手が一瞬止まる。
「…ああ。別に、不思議じゃないだろ。」
努めて平然と答える悠斗に、滝沢は軽く笑いながら言葉を続けた。
「そうかもな。でも、あんなふうに話してるのを見たらさ、誰だってただの友達以上に思うぞ。」
「だから、彼女なんだって。」
悠斗は少し肩をすくめて笑うが、その表情はどこかぎこちなかった。
「文化祭の時はさ、訳ありな感じだったけど、コンクール後のあれは…なんつーか、自然すぎた。あれは、演技じゃない。」
「…演技って何のことだよ?」
悠斗は努めて平静を装いながら、軽い口調で返す。しかし、心の中では滝沢の鋭い観察眼に動揺していた。

「俺がどうとかじゃなくて、お前さ、自分の気持ちに気づいてるか?」
滝沢は軽い調子を保ちながらも、真剣な瞳で悠斗を見たが、これ以上は追及せずに席を立った。
「ま、頑張れよ、笹原くん。」

滝沢の背中を見送りながら、悠斗は心の中でつぶやく。
(本当に、いちいち鋭すぎるんだよ…。)
残された悠斗は、ノートに視線を落とすものの、頭の中には紗彩の笑顔が浮かんで離れなかった。
(…自然すぎた、か…。)
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