夏の序曲
第26話 最後のステージ
その日は朝から秋らしい柔らかな日差しが差し込んでいた。
悠斗は机に向かい、参考書のページを必死に追っていたが、気持ちはどうにも集中できなかった。
机の上には、前日に見返した紗彩とのLINEのメッセージが心の中に残り続けている。
「定期演奏会、もし暇があったら聞きにきてよ」
一度は勉強を優先するつもりだった。だが、時計を見るたびに心の中で「行こうか、やめようか」という天秤が揺れる。
結局、悠斗は参考書を閉じ、カバンを掴んで家を飛び出した。
紗彩の学校に到着すると、正門の脇に掲示されたポスターが目に留まる。
「第35回 定期演奏会」
大きな文字とともに、演奏予定の曲名が並んでいたが、悠斗の目はすぐに校内から聞こえるブラスバンドの調律音に引き寄せられた。
受付で名前を書き、ホールに足を踏み入れると、既に多くの観客が席に着いていた。
悠斗は後方の目立たない席に座り、息を整える。
やがて演奏が始まった。紗彩の学校らしい、活気あふれる力強い音色がホールを満たす。悠斗はその演奏に耳を傾けながら、彼女たちが積み重ねてきた努力の結晶を感じ取った。
演奏が一区切りつくと、ゆっくりと幕が下り、ステージが一度暗転する。
しばらくして再び幕が上がると、椅子と譜面台がきれいに片付けられ、広々としたステージが現れた。
先陣を切るようにドラムがリズムを刻みながらステージに現れる。それに続き、残りのメンバーたちが楽器を手に整然とステージへ上がり、指定された位置に整列した。
次の瞬間、軽快なリズムに合わせて部員たちが滑らかに動き始めた。
「…ステージドリルか。」
悠斗は思わず息を呑んだ。
部員たちは音楽に合わせて規則正しい動きを見せながら、次々に隊形を変えていく。その動きは滑らかで、統率の取れた美しさがあった。音楽だけでなく、視覚的な演出も融合したステージは、観客席を魅了していた。
悠斗の視線はステージ中央の紗彩に向けられていた。フルートを奏でながら、彼女は隊列を引っ張るように軽やかにステージを駆け抜けていく。音楽と動きが一体となったその光景に、悠斗は目を奪われた。
(音楽を見せるって、こういうことなんだな…。)
悠斗はその場に釘付けになりながら、自然と拳を握りしめていた。
やがてステージドリルがフィナーレを迎えると、部員たちが再び整列し、最後の一音を響かせた。観客席から大きな拍手が湧き起こり、悠斗もその音色と演出の余韻に浸りながら夢中で手を叩いていた。
演奏後、悠斗はホールを後にしようとしたが、出口近くでばったり紗彩と目が合った。
「…悠斗?」
驚きの表情を浮かべる紗彩に、悠斗は照れくさそうに笑みを浮かべながら手を挙げた。
「いい演奏だったよ。来てよかった。」
紗彩は少しの間言葉を失ったが、やがて目を細め、柔らかく微笑んだ。
「ありがとう。来てくれて、本当に嬉しい。」
悠斗は机に向かい、参考書のページを必死に追っていたが、気持ちはどうにも集中できなかった。
机の上には、前日に見返した紗彩とのLINEのメッセージが心の中に残り続けている。
「定期演奏会、もし暇があったら聞きにきてよ」
一度は勉強を優先するつもりだった。だが、時計を見るたびに心の中で「行こうか、やめようか」という天秤が揺れる。
結局、悠斗は参考書を閉じ、カバンを掴んで家を飛び出した。
紗彩の学校に到着すると、正門の脇に掲示されたポスターが目に留まる。
「第35回 定期演奏会」
大きな文字とともに、演奏予定の曲名が並んでいたが、悠斗の目はすぐに校内から聞こえるブラスバンドの調律音に引き寄せられた。
受付で名前を書き、ホールに足を踏み入れると、既に多くの観客が席に着いていた。
悠斗は後方の目立たない席に座り、息を整える。
やがて演奏が始まった。紗彩の学校らしい、活気あふれる力強い音色がホールを満たす。悠斗はその演奏に耳を傾けながら、彼女たちが積み重ねてきた努力の結晶を感じ取った。
演奏が一区切りつくと、ゆっくりと幕が下り、ステージが一度暗転する。
しばらくして再び幕が上がると、椅子と譜面台がきれいに片付けられ、広々としたステージが現れた。
先陣を切るようにドラムがリズムを刻みながらステージに現れる。それに続き、残りのメンバーたちが楽器を手に整然とステージへ上がり、指定された位置に整列した。
次の瞬間、軽快なリズムに合わせて部員たちが滑らかに動き始めた。
「…ステージドリルか。」
悠斗は思わず息を呑んだ。
部員たちは音楽に合わせて規則正しい動きを見せながら、次々に隊形を変えていく。その動きは滑らかで、統率の取れた美しさがあった。音楽だけでなく、視覚的な演出も融合したステージは、観客席を魅了していた。
悠斗の視線はステージ中央の紗彩に向けられていた。フルートを奏でながら、彼女は隊列を引っ張るように軽やかにステージを駆け抜けていく。音楽と動きが一体となったその光景に、悠斗は目を奪われた。
(音楽を見せるって、こういうことなんだな…。)
悠斗はその場に釘付けになりながら、自然と拳を握りしめていた。
やがてステージドリルがフィナーレを迎えると、部員たちが再び整列し、最後の一音を響かせた。観客席から大きな拍手が湧き起こり、悠斗もその音色と演出の余韻に浸りながら夢中で手を叩いていた。
演奏後、悠斗はホールを後にしようとしたが、出口近くでばったり紗彩と目が合った。
「…悠斗?」
驚きの表情を浮かべる紗彩に、悠斗は照れくさそうに笑みを浮かべながら手を挙げた。
「いい演奏だったよ。来てよかった。」
紗彩は少しの間言葉を失ったが、やがて目を細め、柔らかく微笑んだ。
「ありがとう。来てくれて、本当に嬉しい。」