夕暮れのオレンジ
教室のオレンジ
燃えるような夕暮れが、私と彼女だけの教室を赤々と照らす。
あの日の放課後を、私は絶対忘れない。
彼女と出会ったのは高校入学二年目の、クラス替えの時だった。
出席番号が隣り合っていた、それだけの理由。
仲の良い友人と別れてしまって顔見知りもいなかったから、一番近い席の子に話しかけた。ただそれだけの始まりだった。
よくあるきっかけで仲良くなった子がのちの大親友となる。
そんなどこにでもあるよくある話。
よくある、話。
「好きだよ」
そんな親友が、真摯な目で私に言った。
誰もいない放課後の教室。だらだらとおしゃべりをしていた私と親友。そろそろ電車の時間も近いし帰ろうかと言ったそばから脈絡なくぽんっと投げかけられた告白。
断っておくが私たちは女同士である。体育の時の着替えや修学旅行の温泉などで意外と豊満なのは確認済みだ。浦山けしからんとか思っているので間違いない。大変柔らかかったです。
同性の友達に好意を伝えられて一番ありきたりな対応は。
「ありがとう、私もだよー」
照れたりせず想いを返すことだ。
親愛、友愛、名前を付ければ好意にはいろんな形がある。
男同士がどうだか知らないが、女同士のこういったやり取りは珍しくもない。他の友達だって「流石! 愛してる!」とか冗談交じりの告白をよくする。友情の確認作業みたいなものだ。女は言葉にしないと不安がる生き物である。
しかしそんなありきたりな対応を、親友は望んじゃいなかったらしい。さらりと返された返答に、どこか困ったように笑む。
いや、そこで困られると私が困る。「そうじゃなくて、」とかその前置きも正直いらない。
「真由美のこと、恋愛感情で好きだよ」
「まさか直球で言い直されるとは思わなかった」
真面目故にちょっとずれたところもある親友の切り返しに、真顔で返しながら内心呆然としていた。
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