復讐は溺愛の始まり 〜一途な御曹司は愛しい彼女を逃がさない〜
 沢渡橙子、本名、藤咲穂香が東儀雅義と出会ったのは、今からもう30年以上も前になる。


 「穂香、苦労ばかりかけてごめんね」

 「大丈夫よ、お母さん。心配しないで。明日もお見舞いに来るね」

 「うん、ありがとう。泰生(たいせい)のことを頼むわね。泰生、お姉ちゃんの言うことをよく聞くのよ」

 「はいはい」

 穂香は日に日に弱っていく母親の手を握ると、弟の泰生と共に病院を後にした。

 父親は事故で既に他界、それに1人で家庭を支えていた母も末期癌で入院してしまいと、当時の穂香は母親の代わりに弟の面倒を見ながら必死になんとか家族を支えていた。

 そんな穂香が受付嬢として働いていた東儀製薬に、若き社長として新しく就任したのが雅義だった。

 背がすらりと高く、気品のある所作に誰もが振りかえるような綺麗な顔立ち。そして大企業東儀ホールディングスの御曹司。もちろんそんな王子様のような存在の彼は社内の女性の憧れの的だった。

 「東儀社長、おはようございます」
 「藤咲さん、おはよう」

 受付で雅義に挨拶しながら穂香は頬が熱くなる自分をなんとか落ち着かせようと深呼吸をした。

 当時彼は穂香より8歳年上の30歳。同じ30歳の男を何度も見てきたが、彼は同年代の男性とは比べものにならないほど、落ち着いてしっかりしている。それに堂々とした風格と大人の男の色気がある。

 (素敵な人だなぁ……)

 大企業の御曹司なんて、穂香のような何もない人間には手も届かないような天上人。でもそんな彼を遠くからでも一目見れることは、色の無い日常を奮闘しながら生きている穂香にとって、ちょっとした楽しみだった。

 そんな彼だが、穂香が会社近くの静かな公園でお弁当をひとり食べていると、何故か彼もお弁当を持って頻繁に現れるようになる。
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