復讐は溺愛の始まり 〜一途な御曹司は愛しい彼女を逃がさない〜
 「これは秘書課用と言うか自分用のコーヒー。社長はご自分で何でもやるから」

 「えっ……そうなんですか?」

 私はすこし驚いて眉を上げた。

 普通第二秘書といえば第一秘書とは違い、社長へコーヒーを出したりと雑務全般をよくしているイメージがある。実際に結愛はあの穂月社長の第二秘書としてまるで奴隷のようにコーヒーを淹れさせられたり、買い物に行かされたり、靴を磨かされたりと色々とさせられている。

 「そうなの。ちょっと珍しいでしょ?コーヒー淹れてもらう為に雇ってるんじゃないって、それぐらい自分でやるから気にしなくていいって言ってくれるの」

 「そうなんですね……」




 (彼があの穂月百合香のような人間とは全く違う人だというのは、あの夜、既にわかってたじゃない……)

 私は秘書課の人達と一緒にペイストリーをいただいた後、社長室へと続く廊下を1人コツコツと歩いた。

 こうして一つ一つ彼の事を知るたびに、彼がどれほど素晴らしい人間なのかを知ってしまう。汐梨が言っていたように、彼は婚約しようとしている恋人がどんな人間なのか知らないに違いない。

 なぜかその事実に悲しい気持ちになりながら、社長室のドアをノックした。


 「橘花です」

 「入ってくれ」

 彼の低く落ち着いた声が聞こえる。


 「明日なんだが台湾のサプライヤーとの商談がある。いくつか急いでこれらの追加資料を翻訳してほしい。会議は英語で行われるので全て英語で。間に合うか?」

 彼はそう言いながら書類の束を私に見せた。受け取ってパラパラとページをめくる。内容は東儀ホールディングスのグループ会社の国内工場向けの電気電子部品の大きな集中購買についてで、業界用語で色々と部品の生産に関しての技術的な細かい指示などが書いてある。
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