恋と首輪

蓮side

その日の夜。
東雲低にて

「お帰り、父さん」
「おお、蓮ただいま。」

家に帰ると、仕事で滅多に帰ってこない父さんが、久しぶりに帰ってきた。

俺がこの世で一番尊敬する人。

「最近どうだ?学校と仕事で大変だろ?」
「いや、これぐらい余裕です。」
「おお、さすがだな。この前の会社のプロジェクトも全部お前が1人でやったんだってな。南雲に聞いたよ。」
「はい、父さんの息子ですから。」
「はは、父さんも嬉しいよ、こんな出来のいい息子がいて。」

ああ、頑張った甲斐があった。
父さんに褒められるためなら、何でも頑張れる。

「最近、学校でも楽しそうなんだってな。」
「え?」
「聞いたぞ、いい子見つけたって。もう2ヶ月は同じ子なんだろ?」
「ああ、そこまで知ってるんですね」
「まあな、父さんも息子が心配なんだよ。でも、そんなにいい子なのか?」
「…はい、純粋なんです、心が。」

出て行った母さんと同じで。
そう言った俺を数秒見つめた父さんは大声で笑う。

「お前も男になったな、」
「……ッ、」
「でもな、女に深入りしすぎるなよ。俺と同じ風になってほしくないからな、お前には。」
「…わかってます」

俺が女の話をすると、父さんは悲しそうな顔を見せる。
出て行った母さんが忘れられないんだろう。
俺も、忘れられない。

母さんほど全てが綺麗な人はいないから。
外見も、心も。

父さんと母さんは、あれほど愛し合ってたのに。一生一緒にいるって言ってたのに、

母さんが他に男を作って出て行った時、絶望に暮れた父さんは俺に言った。

「愛情なんて目に見えないものを信じるな」

ああ、ほんとにその通りだ。

「俺も彼女も、愛なんか信じてないです。」
「そうか、ならいいけどな。」

俺にはできない。
そんな不確かなものを信じることも、

求めることも。
母さんが出て行った時の、後ろ姿がトラウマのように、頭から離れない。

俺は、人を愛せないんだ。

愛する人を、また失うのが怖いから。
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