恋と首輪
綺麗

 
「…蓮様」
「ん?なーに?」
「…もう少し、離れていただけませんか?」
「やだ」

ソファで私を後ろから抱きしめながら、至近距離で、子供のようにぷくっと頬を膨らませる。
主人は、何事もないように本を読んでる。
私の肩に、顎を置いて。

首輪になって、1ヶ月。
主人が、ここまで長く首輪を外さなかったのは私が初めてらしく、校内では、私たちがデキてるとまで噂が流れ始めた。

冗談も大概にしてほしい。

この1ヶ月は遅いようで短かった。
3日に1回呼び出されて、こうやって主人とだらだらするだけ。
ここまで何もしなくていいとは本当に思わなかった。
これで授業料免除に将来安泰だなんて。
ほんとにいいのだろうか…

「あの、蓮様。私何かすることは…」
「ない。みゆがすることは何もないって言ってるじゃん。」
気を遣ってそう言ってはみるものの、毎回これだ。それに最近は、

主人が少し甘い。

「んー、みゆの匂いって眠くなる」
私の肩に顔を預けたまま、目を閉じる主人。

その彫刻フェイスは、やっぱり健在で。
見るたびに、その遺伝子に感動してしまう。

「蓮様、横になられますか?」
「んー、」
「毛布持ってきますね……、きゃっ」

立とうとした私を離すことなく、一緒にソファに倒れ込む。

「いい。一緒に寝よ?」

抱き寄せられた、主人の首元からは心地のいい爽やかな香水の香りがした。

「…蓮様、最近お疲れですね」

最近、主人の顔色がよくない日が続いてた。
目の下の大きなクマは、主人の綺麗な顔に不似合いだ。

「バレてた?父さんの仕事手伝っててさ。」
「無理しすぎもよくないですよ」

聞くところによると、学校終わりと、休日も東雲財閥が所有する会社に出勤してるらしい。

この若さで、もう"副社長"のポストについているらしく。たまに、学校でもこの専用部屋で仕事をしてるし。

それを考えると、やっぱりこの人は私とは格が違うんだって考えさせられる。
やっぱりすごい人だ。

「大丈夫だよ、みゆに癒してもらえるから」
そしてぎゅっと、抱きしめる腕に力を入れる主人。

「私が、癒しになってるんですか?」
「うん、みゆといる時だけは心が軽いんだ」

素直に嬉しかった。
まさか私ごときが、主人の役に立ててるなんて。自然と口角が上がるのを、主人に見せないように

「そう、ですか」
主人の胸に顔を埋める。

「今日なんか可愛いね」
「…えっ?」

「顔見せて?」
そう言った主人は、両手で私の顔を上に向ける。また、目が合う。
そして、何秒か見つめあった後、主人の綺麗な唇が、私のを包み込んだ。


「……んんっ、…はっ、」


毎回ながら、出てしまう声に恥ずかしくて死にそうになる。

主人のキスは、私を一瞬たりとも休ませない。
頭がぼーっとしてくる。

こんな中でも、

"これも全部計算なのかな"
そんなことを考えてしまう私は、おかしいのだろうか。

今までは、キスして終わりだった主人が、今日は様子が違った。
体を離した主人は、私の首元に吸い付く。

くすぐったい感覚に、息が荒くなって。

気づいた時には、主人が私のブラウスのボタンを外して、私の上に馬乗りになった。

「…ちょ、蓮様……やめてくだ…ッ」

「うるさい」
喋るな、と言わんばかりにまた唇を塞ぐ。
主人の大きい手が、私の体を触る。
冷たい手が、肌に直に当たって体がビクッと震えた。

「……っや、…まって……」

やっぱり違う。
触り方も、その目つきも、
怖いと感じてしまった。

でも主人に抵抗なんてできるわけなくて、
体が震えて、私の目から、涙がこぼれた。

私の涙に気づいた主人は、動きを止めた。

「……ごめん、」
そう言って、私の涙を舐め取る。

「俺が悪かった」
そう悲しい表情を見せる主人。

私はこれでいいのだろうか。
"首輪"として、

「…いえ。私は、あなたに抵抗なんてできません、」
「……え?」
主人は目をまん丸にする。

「…もし、蓮様がお望みなら、」

私は、主人の手を握って、露わになった自分の胸元に置いた。

「…私を好きにしてください、蓮様」

絶対服従。
それが私の守るべきこと。

ふっ、と息を吐き出すように笑った主人は、
私の唇に、触れるだけのキスを落とした。

「バカだな。こんな震えて涙流してそんなこと言っても説得力ないよ?」
丁寧に、はだけた服を元に戻していく。

「…ごめんなさい、」
「え?何で謝るの?」
「……だって、」
主人は、また私を抱き寄せる。

さっきとは違う優しい目、
暖かい体温に、少し安心した。

「俺が馬鹿だった、みゆには簡単に手出しちゃいけないって分かってたのに」
「…え?」
「みゆは心が綺麗だから」

心が綺麗……
初めて言われたその言葉が、なぜかもどかしい。
綺麗なんかじゃないのに。

「だからもっと、欲しくなる。」

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