相談室のきみと、秘密の時間
例えば、綺麗な夕日を見た時。
雨上がりに虹がかかっているのを見つけた時、
ふと通った知らない家からおいしそうな夕ご飯の匂いがした時、私は寂しくなる。

春の桜の花びらが落ちたひだまりのあたたかさの話も、
夏の照りつける太陽がアスファルトを焦がす匂いの話も、
秋の夜に鈴虫が鳴いて溢れそうになる心の声も、
冬の霜柱が立つような朝に自分と世界の輪郭が鮮やかすぎて奮い立つような気持ちも、
私は確かに誰かに伝えたいのに、そんな人は誰もいなかった。

「今日は最後の三日間というワークをやります」

去年の春、中学の卒業式を前にして担任が言った。
通常の授業は終わっていて高校入試の結果待ちの人が多く、特にすることもないけれど一応登校しているような時期だったから、授業の内容はほとんど適当だった。

最後の三日間はそのままのことで、もし自分があと三日で死んでしまうとしたら、何をして誰と過ごしたいかを答えるものだった。
先生は卒業前の時間は短いから、悔いなく過ごせるように考えさせたかったのだと思う。

でも私は自分の中には何も無く、死んでも何も残せない、寂しい人間であることを自覚しただけだった。
< 2 / 67 >

この作品をシェア

pagetop