相談室のきみと、秘密の時間
それは10月下旬のことだった。
その日は朝から指がかじかみ、白い息を絶え間なく吐き出すほどに冷えていた。
空は鈍色の雲で埋まり、私はシーズンに入ってはじめてダウンコートとマフラーと手袋をフル装備して登校した。
放課後にはいつものように相談室に入ると村越さんは暖まるからと言って、ゆずと生姜のハチミツの入ったハーブティーを出してくれた。
「よく温まってね」
「ありがとうございます」
私はもいつものようにソファーの定位置に腰をかけた。
村越さんは私がハーブティーを飲んでるのを、何を言うでもなくしばらく見ていた。
「今日はバウムテストをしてみないか」
すると一枚の白紙と鉛筆を取り出し突拍子もなくこう切り出した。
「それって心理検査ですか?」
「僕もたまにはカウンセラーらしいことをして見せなきゃね」
「それは楽しみです。バウムってバウムクーヘンのですか?」
「そう、バウムクーヘンのバウム。何か分かる?」
「あのグルグル巻かれた様子が木の年輪に見えるからだっていうのは何となく」
「年輪もそうだし、まあここでは木そのもの、木を描くテスト」
「でも私は絵を描くのは得意じゃない……」
「下手とか関係ない。このテストは投影法っていう種類のもので、正解はないから安心してやってみて欲しい。私が君にお願いするのは今から言うことだけ。『この紙の上に一本の実のなる木を描いてください』ってね」
「やってみます」
確かに絵が下手だから誰かに見せるようなものは描けないけれど、木や花は好きだしそういう自然の風景は直ぐに頭に思い浮かべることができた。
思い浮かべたのは、まだ私が東京にいた時に小学校までの通学路に咲いていた桜の木だった。
春には満開の桜の色が眩しいくらいに輝いていて、私はいつも立ち止まってそれを眺めていた。
桜の木には実は付かないが、そんなことは多分このテストには関係ないのだろうと思いながら、その桜を描いてみた。
その日は朝から指がかじかみ、白い息を絶え間なく吐き出すほどに冷えていた。
空は鈍色の雲で埋まり、私はシーズンに入ってはじめてダウンコートとマフラーと手袋をフル装備して登校した。
放課後にはいつものように相談室に入ると村越さんは暖まるからと言って、ゆずと生姜のハチミツの入ったハーブティーを出してくれた。
「よく温まってね」
「ありがとうございます」
私はもいつものようにソファーの定位置に腰をかけた。
村越さんは私がハーブティーを飲んでるのを、何を言うでもなくしばらく見ていた。
「今日はバウムテストをしてみないか」
すると一枚の白紙と鉛筆を取り出し突拍子もなくこう切り出した。
「それって心理検査ですか?」
「僕もたまにはカウンセラーらしいことをして見せなきゃね」
「それは楽しみです。バウムってバウムクーヘンのですか?」
「そう、バウムクーヘンのバウム。何か分かる?」
「あのグルグル巻かれた様子が木の年輪に見えるからだっていうのは何となく」
「年輪もそうだし、まあここでは木そのもの、木を描くテスト」
「でも私は絵を描くのは得意じゃない……」
「下手とか関係ない。このテストは投影法っていう種類のもので、正解はないから安心してやってみて欲しい。私が君にお願いするのは今から言うことだけ。『この紙の上に一本の実のなる木を描いてください』ってね」
「やってみます」
確かに絵が下手だから誰かに見せるようなものは描けないけれど、木や花は好きだしそういう自然の風景は直ぐに頭に思い浮かべることができた。
思い浮かべたのは、まだ私が東京にいた時に小学校までの通学路に咲いていた桜の木だった。
春には満開の桜の色が眩しいくらいに輝いていて、私はいつも立ち止まってそれを眺めていた。
桜の木には実は付かないが、そんなことは多分このテストには関係ないのだろうと思いながら、その桜を描いてみた。