夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる

わだかまり 祐樹side

 沙也加を叱ったのち、フロアで騒いだ沙也加について他の社員に謝った。

 彼女の我儘を許してきたこと、親の顔色を窺って来た自分の半生を後悔した。

 ある意味、僕は養子に出て解き放たれた感があるのだ。それまでは窮屈な毎日だった。

 僕は年子の兄をライバルだと小学校の高学年の頃くらいからずっと思っていた。

 それを助長したのは実は父だった。祖父の代から始まった製菓会社で父は二代目だった。

 母の旧姓は佐伯。母の年の離れた兄はとても優秀で学生時代に友人と食品系の商社を興した。

 伯父が社長になったころ、母は僕を身ごもり出産した。

 男の子がふたり、立て続けに年子で生まれた。

 伯父のところは長年子供が出来ず、妹である母がもし生んでくれるなら、その子を養子にしたいと話していたそうだ。

 父は年子の僕らを競わせた。優秀な方を自分の会社の跡継ぎにしようとしたからだ。

 運動は兄の方が得意だった。身体も大きかった。

 僕は勉強が出来た。父のせいで兄弟仲が徐々に悪くなり、母は伯父と父の間に挟まれて心を病み始めた。

 伯父はくだらない争いをさせるくらいなら養子はいらないと宣言した。だが、父は相変わらずだった。

 何かにつけ、僕ら兄弟を競わせ、どちらを社長にしようかと鼻の頭に人参をぶら下げるように挑発した。

 僕は伯父に呼び出された。そして兄に家督を譲れと言われた。

 それが一番落ち着くし、両親も納得すると言われた。高校に入学した僕はどうしても納得がいかなかった。つらい高校生活だった。

 昔から盲目的に僕を好きな沙也加に、ある意味騙されて支えられた時期もあったが、彼女の傲慢さはどうしても許せないところがあった。
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