夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
「本当に?」

「仲が悪いからあちらに住んでないわけじゃない。成人した息子を家に縛り付けるような人達ではないからね。しかも、養子になってすぐに海外へ出たし、あの人達とは一緒に住んだことはない。戸籍上だけ親子になったけど、正直関係性はあまり変わってないんだ」

「祐樹さんは養子になること納得してないの?」

「いや。今は納得している。ただ……母が生きていれば絶対出なかっただろう」

 その痛烈なひとことで何かわかった気がした。

「でも僕にとって、母方の佐伯の叔父は実の父よりも近い存在だった。僕が大学で英語を勉強したのは叔父の影響だからね」

「そうだったの……」

「まあ、今思えば早い段階から養子に狙われていたのかもしれない。養子になる話も母が反対していたと聞いたから、大分前から話自体はあったんだろうな」

 つまり、お母さまが亡くなって遮るものがなくなり、養子縁組が決まったのね。

 車はタワーマンションの地下へ入っていく。

「マンションにお住まいなの?」

「ああ。夫婦二人の生活だったからね。走り回る子供はいないし、静かで眺望のいい、便利な場所に住んでいる」

 入口を入ると吹き抜けになっている。制服姿のコンシェルジュが笑顔で迎えてくれた。まるで高級ホテルに来たかのようだった。

 40階につくと、一番奥の部屋だと言われた。呼び鈴を鳴らすと優し気な笑顔の眼鏡をかけた女性がドアを開けてくれた。佐伯のお母様に違いない。

「いらっしゃい。おかえり、祐樹」

「ただいま」
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