刹那に触れる兎

そのあと、諏訪さんは「レミさん、今日は何時までですか?」と訊き、わたしが「今日は22時までかな。」と答えると、「じゃあ、近くまで車を持って来て待ってます。今日から我が家に来てもらいますよ。」と言うと、「では、あとで。」と微笑み部屋から出て行った。

こうして、わたしたちは条件付きの付き合いが始まった。

しかし、わたしは諏訪さんに恋愛感情はない。

ただ、あまりにもしつこいので嫌われて諦めてもらう為に仮の恋人になるだけだ。

わたしは、もう誰も好きになることはない。

裏切られたくないから。
もう傷付くのが怖いから。

だから、もう、、、わたしは恋をしない。

諏訪さんが部屋を出たあと、わたしは2人のお客の相手をし、男性スタッフに「今日は早めに帰るから。」と伝え、帰る支度をした。

お店を出ると、すぐ右側の道路脇に黒いクラウンが停まっているのが見えた。

諏訪さんかな?
そう思い、ヒールをコツコツと鳴らしながら、ロングのトレンチコートに手を突っ込み近付いて行くと、その黒いクラウンの運転席から諏訪さんが降りてきた。

「お疲れ様です、レミさん。」
「さすが、弁護士さんが乗ってる車ね。」
「どうぞ。」

そう言い、諏訪さんは助手席を開けてくれた。

「ありがとう。」

わたしは助手席に乗り込むと、車内の香りにある事を感じた。

わたし好みの香りだ。
そうゆうところは、気が合うのかも。

そう思っていると、諏訪さんは運転席に乗り込み、「では、我が家に帰りますよ。」と言い、車を発進させた。

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