恋愛短編集10作品

~可愛がり~


お昼休みの廊下。

「はい、食べてね♪」

手に渡されたのは、いつも食べているコロッケパンが3つ入った紙袋。

「…あぁ…」

受け取った俺に、笑顔を向け…方向転換…後姿。
コロッケパンを一つ口に入れ、階段を上る。

今日は、誰もいない屋上。
熱い程の日差し…少し陰になった一角に座る。

静かな一時…満腹に、満足…
心地よい眠気に誘われるまま。

【ふわり】

夢心地の中で良い匂い…
腕には、柔らかい気持ちのいい感触。

癒される…気分が良い…
そっと、目を開けると腕には女の子。
を、抱きしめている…俺??

起き上がり、引き離して顔を確認すると…奴?!

「…んっ…」

顔を俺の胸に、すり寄せて甘える。
…何だ…この、感覚!?

「お…」

起きろ…
その言葉を呑み込んだ。

この時間を望んだ…
自分が理解できない。

ま、いいか…柔らかい体を引き寄せ、そっと抱きしめる。
良い匂い…甘い…美味しそうな匂いがする。
ムズムズ…落ち着かないけど、幸せな…複雑な感情…


「大陽?」

【びくっ】

自分が何をしたのか、我に返る。
俺は驚いた顔だったのか、恐怖なのか…とにかく混乱の俺に、奴は笑う。

…安堵…

「授業、遅れちゃうよ?」

俺の前を、何もなかったように歩く。
階段を普通に下りているのだろう…それでも、彼女の後姿にムズムズする。

急かされるような衝動…

放課後…
俺の横を何も言わずに歩く。

…何を話すでもなく…共にする時間と距離が増えていく。

視線を落とし、奴を見る。
俺の視線に気づき、微笑…

「楽しいね♪」

「あぁ。」

…思わず返した言葉…
こいつ、何を考えているのかな?
女と男が二人で、帰る道…共にする時間…受け入れる俺の心。
拒絶のない…彼女…


コンビニに入り、立ち読み…
炭酸とエクレアを二つ買って、彼女にも与える。

「ありがとう♪」

ふと、気が付く。
俺のあげた…いや、押し付けた不細工な犬のマスコット。

バカにしたような表情で、揺れる…
歩きながら、エクレアを口に入れた。

いつもより甘く感じる。
喉の渇きに、炭酸を口に入れるが満たされない。

家に着き、何を言っていいのか考える。

「…じゃ。」

方向を変えようとした俺の手を引いた。

「大陽、大好きだよ!!」

前のめりになった俺に不意打ち…

【ちゅっ】

目を閉じた彼女の顔が目の前にあったのは、一瞬。
重なった唇も…

感触の残る俺に、頬を染め笑う。
そして、彼女の…後姿…


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