恋愛短編集10作品
言葉にできないもどかしさ。
「星崎、好きだ。君の事が知りたい。」
本当は、同じクラスになってから気になっていた。
目が合うから。何度も。
気のせいかと思ったけれど。些細な繰り返し。
淡い期待。視線を感じ、好意を期待していたんだ。
俺を好きだったら良いな、と。
「嬉しい。」
君は、俺を信じてくれたかな。喜びの笑顔。
もっと距離を縮めたい。
君は、俺とキスできると思ってくれるかな。どこまで許してくれるだろうか。
「俺と、付き合ってください。」
「はい。」
好きには底がなく。貪欲に。
そう、捕まえたら逃がさない。
可愛い笑顔。俺だけに向けて欲しい。
「山田にも渡さない。」
強引に抱き寄せ、一時の満足を味わう。
「ひどいー!横暴だぁ。私の友達になってくれたのに。ムッツリー!」
放課後。
山田が教室にやってきて、一緒に帰る朗もほったらかし。何を叫ぶのやら。
「もうさぁ、俺達の時間はまだ始まったばかりなわけ。邪魔するとか、馬に蹴られちゃうよ?」
「上等だ!その馬にのって、村島をはねてやる。」
困った星崎が口を挟む間もなく。どっちも譲らず。
後ろで黙って見ていた朗、やっと動いたかと思えば。
山田の腹部に腕を回し。肩に担いで。
「そうそう、俺達の時間も貴重なんだぞ。さぁ、俺の機嫌をとってくれよな?ハナ。」
目が笑ってない。
担がれた山田は、表情を見ていないのに抵抗をやめた。
あぁ、山田……頑張れよ。何かを察する。
二人を見送り。
「帰ろうか。」
「うん。」
そして沈黙。
朗、後で覚えてろよ。この気まずさ。
廊下を並んで歩き。階段、下駄箱、校庭。
無難な他愛ない話を少しずつ。
思いついたことを聞き。
星崎からの質問に答え。
増えていく情報。積み重なる想い。
公園に寄り。ベンチに座り。
木陰で、遊ぶ子どもたちの声は騒がしさもなく。平穏な時間。
「そうだ、中学生の入学式。全く覚えてないんだけど。」
「覚えてないよ。ただ、あなたは私の横を走って通り過ぎただけだもの。」
助けたって言ったのに。理解できなくて。
「私、校門を通った後に緊張して足が止まって。気を失うかと思うくらいの怖さだった。そこに風が吹いて。ふふ。まるで王子様みたいだった。」
王子様。そんな大したものじゃないけどね。
偶然。それが俺たちの今を作り出した奇跡。
「印象的な背中だった。名前を知って、顔を見て。どんな人かと観察して。初恋。片思い。切なくて、告白する勇気もなくて。村島君が告白されて、断ったのを聞いた時は。」
曇る表情。
嬉々として語っていたのに。くるくると変わる表情に、目が離せず。
「星崎……瑠々(るる)って呼んでもいい?」
何とか表情を明るくしたくて。
俺からの提案に、息をのんで茫然。そして。
「……うん。私も。航平君って呼んでいい?」
頬の赤らみ。嬉しそうな笑顔を俺に見せ。
満足する。
山田が先に呼んだのも、本当は気に入らない。
言わないけど。
朗の壁ドンは、有名だったようで。
「私には、あの強引さは怖いかなぁ。」
王子様と表現するから、てっきり少女漫画に憧れがあるのかと。
「じゃあ、俺がキスしたいって言ったらどうする?」
さぁ、どこまで君は許してくれるかな。
逃がさないよ。俺は王子様じゃないから。
「まだダメ。いつか……」
顔を真っ赤に染め。視線を逸らして、小さな声。
それだけで満足。今は。
「ねぇ。もう一度。君から好きだと言って欲しい。瑠々……俺、君の視線が好き。俺をもっと見つめて。逸らさないで。ね、好きだと言ってくれるよね?」
逃がさないからね。
好意を隠さない視線。
その目は、俺だけを見て欲しい。
Love……
end