【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「わたくしの行きつけの店なんです。恋人ともよくデートで訪れていて」

「そうなんですね。恋人ってどんな人なんですか?」

「ふふ……とても素敵な人」


 と、階段の一番上まで差し掛かった時、女性がふわりと口角を上げる。


「わたくしの恋人はね、ハリー様っていうの」

「――え?」


 その時、トン!となにかが肩に触れ、フィオナの体が宙に浮く。気づいたときには、体に激痛が走っていた。


(痛っ! 痛い!)


 声すら出せないような痛みに耐えながら、フィオナは必死にお腹を撫でる。フィオナの体は今、彼女だけのものではない。お腹の子を守らなければ――そう思うのに、痛みはますます強くなっていく。


(嫌だ)


 なにが、どうしてこんなことになったんだろう? 混乱と動揺で、フィオナにはわけがわからない。けれど、涙でぼやける視界の中、勝ち誇ったような女性の笑みが、やけにしっかりと脳裏に焼き付くのだった。



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