【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「フィオナ!」


 気がつくと、フィオナは自宅のベッドの中にいた。ベッドの周りには夫であるハリーや使用人、それから見覚えのない白衣を着た男性がいる。


「ハリー、わたし……」


 つぶやきながら、鈍いお腹の痛みに気づく。次いで襲いかかる得も言われぬ喪失感――気づいたら涙が溢れ出していた。


「うっ……うぅ……」


 フィオナにはわかる。赤ん坊はもう、お腹の中にはいないのだろう、と。


「残念ですが、奥様は今後、妊娠は難しいでしょう」


 追い打ちをかけるかのように、白衣の男性がそう口にする。「そんな……!」と声を上げたのはハリーだった。


「先生、なんとかならないんですか?」

「すみません、こればかりは……」


 頭上で繰り広げられるあまりにも残酷な会話。空っぽになってしまったお腹を抱えながら、フィオナは涙を流し続ける。



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