【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「ありえないわ……こんな……こんなはずじゃなかったのに!」


 母は人目も憚らずに声を荒らげ、涙を流していた。
 必死になだめすかす父の手を、母は思いきり振り払う。


「あなたよ! あなたを選んだのが間違いだったんだわ! もっとあなたに力があったらこんなことにはならなかった! 私は――私の子は誰よりも優秀なはずなのに」

「クラウディアは優秀でしたよ? 正直俺は、この中の誰よりも素晴らしい女性だと思っています。それでも、彼女は儀式を辞退していますから、最上位につくことはありません」


 ユリウス様が冷たく言い放つ。
 母はいよいよ前後不覚に陥っていた。もはや自分がなにを言っているのか、どこにいるのかも理解できていないに違いない。


「お母様――あなたは私じゃありません。私はあなたじゃありません」


 広間から引きずり出される母の後ろ姿を見つめつつ、私は大きく息をついた。


***


「さて、儀の結果は先程発表したとおりだ」


 平穏を取り戻した広間のなか、再び拍手が沸き起こる。
 ナターシャ様はユリウス様の隣に立ち、それから深々と礼をした。


(おめでとう)


 夢が、願いが叶ったんだねと、そう祝福してあげたい。


 ――けれど、本当はさっきからずっと、胸のあたりがズキズキと痛んでいた。鉛でも飲み込んだかのように身体が重くて、頭のなかに暗い靄がかかったみたいで。苦しくて苦しくて、目頭がじわりと熱くなる。


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