The previous night of the world revolution4~I.D.~
「る…ルレイア殿が、行方不明!?一体何があったんです!?」

憲兵局との死闘を経て、今や国政を動かす身ともなり、大抵のことには驚かないようにもなった。

それでもなお、驚かずにはいられなかった。

この世で最も、死とは縁遠いと思われる人物を挙げろ、と言われたら。

俺は間違いなく、そして迷いなく、ルレイア殿だと答えるだろう。

それなのに、そのルレイア殿が、行方不明?

しかも、生きているかどうかも分からない?

それはもしかして…その、ルルシー殿と…駆け落ち…とかではなく?

いや、あの二人に駆け落ちをする理由はない。だって、二人の交際に反対する者は、誰もいないのだから。

そもそも、迂闊に反対などしようものなら、無事に朝日は拝めまい。

誰が望んで、ルレイア殿を敵に回したいものか。

『…残念ながら、何があったのか、こちらにも分からないんだよ』

アイズレンシア殿は、狼狽える俺に反して、静かにそう答えた。

…そうだ。アイズレンシア殿が、わざわざ弱小国家の俺に連絡を入れてくるくらいなのだから、余程切羽詰まっているのだ。

『連絡も取れないし、連絡を取る手段も見つけられない。だから、箱庭帝国政府、『青薔薇委員会』の委員長である君に、助力を乞いたいと思ってね』

「…」

…俺に、はっきりと「助力を乞いたい」とは。

アイズレンシア殿は、相変わらず冷静さな声だったが。

内心では、かなり余裕を失ってきていることを窺わせた。

…事態は、俺が思っているより危機的であるらしい。

俺は、箱庭帝国を解放するに当たって、ルティス帝国、『青薔薇連合会』の力を借りた。

彼らがいなければ、今頃箱庭帝国は、まだ憲兵局の支配に怯えていたことだろう。

アイズレンシア殿や、何より…ルレイア殿の助けがあってこそ、今の箱庭帝国があるのだ。

しかもルレイア殿は、憲兵局の残党まで処理してくれた。

本来は、俺がやらなければならない仕事だったのに。

『青薔薇連合会』とルレイア殿には、一生かけても…いや、二生三生かけても返せないほどの大恩がある。

例え俺がルレイア殿を庇って死んだとしても、ほんの少しの恩返しにもなるまい。

それほどの恩があるルレイア殿の為に、俺が出来ることがあるなら。

…当然、何でもするつもりだ。

「…分かりました。弱小国家ではありますが、一応俺もこの国では、それなりの権力を持つ人間ですから。こちらでも、調べられることがあれば何でも調べてみます。今分かっていることの詳細を教えてもらえますか」

自分が今持っている権力は、多くの犠牲者や、多くの人の支えがあってこそのものだと思っている。

だからこそ、その権力を濫用するような真似は、したくない。

だが、今だけは…ルレイア殿の為ならば…手段を選んではいられない。

『ありがとう。協力を感謝するよ、ルアリス』

「いいえ。俺に出来ることなら、何でも言ってください」

相手はマフィアだとか、そんなことは関係ない。

恩人に恩を返すのに、理由など必要ない。
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