The previous night of the world revolution4~I.D.~
「…」

…違う。ルヴィアさんじゃない。

非通知だ。全く知らない番号からかかってきてる。

しかも、この数字の並び…ルティス帝国のものではない、ような。

見たことがない電話番号だ。

…これが、イタ電、という奴だろうか?

それとも、外国からの詐欺電話?

私はしっかり者の妻なので、おかしな詐欺に引っ掛かるつもりはない。

一体、誰からかかってきたのだろう?

よく見てみると、音声メッセージが入っている。

しかも、ちょっと長い。4分58秒。ほぼ五分だ。

何処の誰が、私の携帯に五分にも及ぶメッセージを入れたのだろう。

ルヴィアさん以外の人からの連絡なら…別に無視しても良いのだけど…。

…私の、勘が。

これは、非常に重要なものだと言っていた。

「…」

意を決して、私は音声メッセージを再生してみた。

再生ボタンを押すと、変なウイルスみたいなものに感染するかもしれない、と思ったが。

そのリスクを冒しても、これは聞かなくてはいけない…そんな予感があった。

「…?」

しかし、その音声メッセージは、めちゃくちゃだった。

声も小さくて、ボリュームを一杯にしても、微かにしか聞こえない。

しかも、ヘリウムガスか何かで声を変えているらしく、誰が喋っているのかも分からない。

何より、ルティス語ではなかった。

聞いたこともない発音で、ルティス語と、ほんの少しのアシスファルト語くらいしか分からない私には、何と言っているのかさっぱりだった。

…やっぱり、イタ電なのだろうか。

すると、そのとき。

「…!」

聞き覚えのある単語が聞こえて、私はハッとした。

ルティス語ではない。アシスファルト語でもない。

箱庭帝国…故郷の、大昔に使われていた言語だ。

今はもう、箱庭帝国ではほとんど使われていない。

でも、私がまだ故郷の、秘境の里にいた頃、一族の長老達が時折使っていた言葉。

それを、朧気ながらに覚えていた。

どうして、こんな言葉を?

「…」

再生が終わるなり、私はもう一度最初から再生し直した。

もしかしたら聞き間違いかもしれないと思ったのだ。

一回、二回と聞き直し、私は再確認した。

…やっぱり、これは箱庭帝国に古来から伝わる、少数言語だ。

最早誰も使っていないような言葉。それを、このメッセージの送り主は使っている。

それに…このメッセージ、まるで色んな国の言語を組み合わせたかのように、発音がバラバラなのだ。

時折ブツブツと音声が途切れて、上手く聞き取れないところもあるけど…。

これは…多分、暗号なのだ。

私みたいな素人には分からないけど、聞く人が聞けば、何か意味のあるメッセージになるのだ。

問題は、そのメッセージを送ってきたのが誰か、ということだ。

覚えが…ない訳ではない。

違うかもしれないけど。私の考え過ぎかもしれないけど。

でも、1%でも可能性があるなら。

…情報に飢えているこの状況で、どんな些細なことでも…黙っているのは、罪だと思った。
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