The previous night of the world revolution4~I.D.~
「私はシェルドニア王国に連れてこられた後、奴隷市場で競りにかけられました」

まだ物心つくかつかないかという幼さだったが。

あのときの屈辱は、今でも忘れられない。

裸にされ、手錠と足枷を嵌められ、じろじろと見られながら品定めされる、あの屈辱。

自分が、単なる「モノ」になった気分だった。

「私を買ったのは、アシミムの父親…。前王です。彼が、娘であるアシミムの為に、私を買ったのです」

娘の身の回りをする下女として、私を買った。

「ということは…売られてからずっと、アシミムの傍に?」

「えぇ…。前王が亡くなってからは、所有権がアシミムに移りましたが…シェルドニア王国に来てからは、ずっとアシミムの傍にいます」

今も、それは変わらない。

何もしなければ、私は一生…アシミムに仕え、アシミムの為に働かなければならないことだろう。

「私は今、奴隷の身分ではありますが、屋敷の従者の中では、ルシードの次に地位の高い側近です」

「長くアシミムの傍にいたから?」

「それもありますが…。私には、呪術の才能はありませんでしたが…そのぶん、身体を動かす方に関しては、かなり得意だったようで…」

皮肉な話だ。

何一つ取り柄がなかった訳じゃないのだから、喜んだ方が良いのかもしれないが。

「…確かに、そこらの雑兵と同じだと思ってると、痛い目を見そうだな。最初に俺達の前に立ちはだかったときは、手を抜いていたな?」

「えぇ。あなた方の力量を測ってもいました。あなた方が、私の秘密を打ち明けるに足る人物であるかと…」

最初は、そこまで期待していなかった。

異国のマフィアなんて、所詮ゴロツキの集まりでしかないだろうと。

しかし…この人達は、私の予想を遥かに越えて賢く…そして強かった。

この人達ならば。

きっと…私の目的を叶えられる。

「…つまり、俺達はお前が秘密を打ち明けるに足る人物だと評価された訳だな?」

「そういうことです」

「それは光栄…と思うべきなのか?それとも、面倒事を押し付けられて厄介だと思うべきなのか?」

「どう考えるかは、あなた方次第です」

「まぁ…ヘールシュミット邸から逃がしてもらえた上に、ルレイア先輩に関する情報をもらえたのだから…その点では感謝すべきだな」

それはそれは。

少しでも恩を感じてもらえたなら結構。

「それで?お前の目的は何だ?何の為にアシミムを裏切った?」

「…まずは、私がアシミムに仕えるようになってからの昔話をした方が良いでしょうね」

思い出したい話ではない。

この話を他人にするのは初めてだ。しかも…異国人に対して。

けれども、今は話すべきだと思った。
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