The previous night of the world revolution4~I.D.~
「お前、自分は一方的に与えられる側だと思ってるだろう」

だから、そんな発想になるんだ。

「…違うんですか?」

「違うよ。馬鹿」

勘違いも良いところだ。

もう何度言ったことか。

「俺も同じくらい、お前に色んなものを与えられてるよ」

「…例えば?」

例えば?そうだな…。

「俺の生きる理由」

「…俺、あなたにそんなものあげましたっけ?」

「もらってるよ。ちゃんと」

ルレイアと過ごした一分一秒が。

俺にとっては、全部自分の生きる理由になるんだ。

「だからもう、何も疑うな。ルレイアが俺を思ってるのと同じだけ、俺もお前を思ってるんだから」

「ルルシー…」

「分かったか?」

「…はい」

宜しい。

「しかしまた、何でいきなりそんなことを言い出した?」

「…」

ルレイアは無言で俺の上から退いて、ベッドに腰を下ろした。

…ルレイアが素直に俺の上から降りるとは。

怪奇現象か。

「…頭ふらふらする…」

「大丈夫か?」

ルレイアの額に手のひらを当ててみる。

熱…はないようだが。

「貧血か?」

「いえ…。お薬の副作用だと思います」

薬だと?

「何の薬?」

「睡眠薬」

何を飲んでるんだお前は。

…まさか、こいつ…。

「別に自殺じゃありませんよ。ただ眠れないもんだから…」

「眠れない…?何で?」

自殺の意図がないことには安心したが。

ルレイアの寝付きの良さは、昔から人一倍だったはずだ。

それが何で…。

「…嫌な夢を見るんです。『ホワイト・ドリーム号』で見たのと同じ夢を」

「…!」

何だと?

「…いつから?」

「シェルドニアから帰ってきてから、ずっと…」

「…そんな…」

…俺は、馬鹿か。

シェルドニアから帰ってきて、もう何日たつと思ってる。

ルレイアがこんなになるまで、気づきもしなかった。

「何で言わないんだ、お前は…」

「じきに治ると思ったんですよ。しばらくすれば…。でも、思ったより長引いて…」

「…」

…あの忌々しい、『白亜の塔』と…ヘールシュミット邸で投与された薬の後遺症か。

いや、それだけではないだろう。

だって。

「…ルレイア」

「はい?」

「…実はな、俺も同じなんだ」

「…そうですか」

ルレイアは驚かなかった。

それどころか、予測していたかのように見えた。

『白亜の塔』の影響が残ってる?

薬の後遺症?

確かにそれも少しはあるだろう。

でも、本当の理由は違う。

俺達が日常に戻ってからも…いや、日常に戻ったからこそ、悪夢を見るようになったのは。

あの船の中で…ずっと閉ざしていた俺達の記憶の蓋が、開かれてしまったからだ。
< 465 / 580 >

この作品をシェア

pagetop