呪われ姫と悪い魔法使い

第5話

「どうしたウィンフレッド。今日はここで寝るのか? 風邪引くぞ」

「カイル!」

 音もなく現れた彼は、いつものように部屋を一周してからふわりと舞い降りる。
その姿をカラスから金髪の幼い少年の姿に変えた。

「フン。ここの宮廷魔法師は、なかなか面白そうなヤツだな」

「カイル、来てくれたのね!」

 抱きつこうとするのを、彼は全力で拒否した。

「やめろ! それ以上俺に近づくな、ウィンフレッド。新しく張られた結界がなかなか巧妙で、あまり上手くこの姿を保てそうにない」

「どういうこと?」

「俺を呼び出した要件を、手短に答えろ」

 久しぶりに会えたのに、長く居てくれるつもりはないらしい。
それでも顔を見られただけで、十分嬉しかった。

「ねぇ、カイル。パンタニウムの花祭りの日は、ここに来られる?」

「無理だ。断る。そんなものに興味はない。それに祭りは昼間だろ。俺はカラスだ」

「それでもいいの。カラスのあなたをカラスのままで、お友達として紹介したいの」

「は? 誰にだよ」

「お城のみんなによ。ドットが許可してくれたの。ずっとここに閉じこもっているのも可哀想だからって。塔の外に出られるのよ。といっても、すぐこの下の小さなお庭で、お茶するだけなんだけど。あなたはカラスのままでしゃべらなくていいから、私のお友達だって紹介させて」

「断る」

「どうしてよ! そうすれば、昼間だって夜だって、もっと堂々と会いに来られるようになるわ。カイルは私と……。わ、私と、会いたくないの?」

 頬を赤くした私に、彼の小さな蒼い目が一瞬白く瞬く。
ランプの灯りに照らされて、金の髪が赤く揺れた。

「俺がここに来る理由は、グレグの使いだからということを忘れるな」

「じゃあそのグレグは、いまどこにいるのよ」

「南の海と言っただろ。花祭りの頃には戻ってくる」

「ドットも会いたがっているわ」

「宮廷魔法師か」

 カイルの様子がおかしい。
ここにいるはずなのに、まるで別のところから私を見ているよう。

「まぁいずれ、そいつには会うこともあるだろう。ウィンフレッド。俺はもう行く。その宮廷魔法師によろしく伝えておけ」

 窓枠に飛び乗ったかと思った瞬間、彼は背に翼を広げ、外に飛び出した。
あっという間にカラスに姿を変えたカイルは、夜の闇に消えてゆく。
私は小さくなってゆくその姿を、塔の中から見送った。
カイルは呼べば来てくれる。
だけど彼が来てくれるのは、あくまでグレグに言われているからだ。
グレグの命令に従って、私の呼ぶ声に応えているだけなんだ。
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