資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました








「……エナ」


どれくらいそうしていただろう。
再びユーリに名前を呼ばれても、彼を直視することができなかった。


「悪かった。機嫌を直してくれ」


頬を指先でそちらを向かされ、チラリと見上げてみれば。


「……悪かったって顔してない」

「悪い。本当に申し訳ないと思っているが、嬉しいが勝った」


そう、そのままそっと頬を撫でられる。


「嫌に決まっているだろう? エインが……他の男がお前に触れるなんて。それでも、どうにか……本当にどうにかじゃないと譲れない俺は、夫して最低なのだろうな」

「……そんなことない」


私は、嫌だと言ってほしかったのだ。
抱き寄せて、ユーリの胸に固定するように包まれて、そんなことさせないと言ってほしかったんだ。
たとえ、そこで耐えてくれたことが本当の愛情や優しさなのだったとしても、エインに許してほしくなんかなかった。


「でも、ニヤけすぎよ」


それも本当は、正しい表現ではない。
口元は穏やかに微笑んでいるれけど、ユーリの瞳は熱っぽく揺れている。


「それは仕方ない。目の前で他の男が拒まれ、加えてお前はそうして拗ねている。……愛しい以外の何がある」


今更ぎゅっと腕に閉じ込められ、遅いと睨んでも無意味だ。


「でも、辛い時は言ってくれ」

「痛みはすぐ引くわよ。傷跡も自分じゃ見えないし」


気にすることはない。
だって――……。


「俺は気にする」

「……傷跡、消した方がいい? 」

「そうじゃない」


余程醜いのだろうかと俯くと、そっと指先が顎を上向かせた。


「好きな女に怪我をさせた。気にならない方がおかしい」

「……っ、わ、私は大して気にしてな……」


触れているのは指先、それもほんの僅かな部分で、力もほとんど入っていない。
それなのにどうして、こんなにも抵抗できないのだろう。


「だから、代わりに俺が気にする。お前は何も考えず、ここにいてくれたらそれでいい」


――無理だなんて言うな。

そう言ってくれるのは、それが一番難しいのだとユーリが知っているから。
すべて理解していてくれるからこそ、先回りしてくれる。


「ユーリ……」


何かを言おうとする口を、優しく塞ぐユーリの腕に掴まる。
それに抗う気にはなれずにキスに応えながらも、どこか違和感を覚えた。


「……ノアくん……」


エインが来たのに、反応がない。
熟睡していて気づかなかったのだろうか。


「どうした。ノアは、ぐっすり眠って……」


慌てて側に駆け寄ってノアくんを覗き込むと、いつもよりも呼吸が荒い。


「ノアくん……! 」


そっと額に手を当ててみると、あまりの熱さに悲鳴を上げるように呼んでしまった。


「落ち着け。ただの風邪だろうが、医師を呼ぼう。大丈夫だ」


どうしてもっと早く気がつかなかったのかと自分を責めるのを遮るように、ユーリが私の肩を包んで言った。
力強く言ってもらえて少しほっとしながらも、私が動転していてはダメだと自分を鼓舞した時。


「……ははしゃ……」


――行っちゃ、いや。





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