資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました
まだ思考が追いついていない私の背中に、ユーリがそっと口づける。
もう癒えているらしい場所は、ユーリの唇が触れて疼き、私は彼の腕の中でピクンと跳ねてしまった。
「直接触れないと効果がないって……」
「嘘だったな」
(あの時だ)
エインに、エナの中身が別人であることを認めた時。
抱きしめられたと思ったけれど、背中の傷を治してくれていたのか。
「違うぞ」
「え? 」
一人納得していると、後ろからユーリの腕が伸びてくる。
「治癒に抱きしめる必要はない。あれは、確実にお前を狙ったのだ。これからも気を許すな」
「……嫉妬? 」
「……当たり前だ」
クスクスと笑われて拗ねたのか、唇でそっと耳の軟骨を食まれる。
身動ぎはしても、何も言わずに身体の重みを後ろにある胸に預ける私を呼んで。
「もう二度と、こんな真似はしないでくれ。俺が力を尽くすのは、国の為だけじゃない。お前といる未来の為だ。だから、どうか……」
――失わせないで。
囁き声に涙が浮かぶ前に、ユーリの唇が首筋へと落ちていく。
とても、返事はできなかった。
きっと、ユーリも受け取るつもりはないのだと思う。
だって、どれだけ甘く強請られても、そのお願いは聞くことができないから。
・・・
「そんな顔するな。何度も謝ってるだろ。おまけに、今は母様を譲っている」
さっきまでの声とは違う、ユーリの「とと」としての声が側で聞こえ、吹き出しそうになるのをどうにか堪えた。
「ああ、眠っているな。それは、まあ……父様のせいだが。分かった。分かったが……もう少し眠らせてやれ。起きたらノアと遊んでくれ……なんだ、起きてたのか」
狸寝入りは、ニヤニヤするのを抑えられずに失敗したようだ。
「起こして悪い。ノアが痺れを切らして、今も拗ねている」
首を振ってノアくんを抱き寄せようとして、慌てて自分の状態を確認する私の耳に、仕返しとばかりに軽く意地悪をして。
肩にブランケットを掛けてくれたけれど、いつの間にか私の身なりは整えられていた。
「ご、ごめんね」
慌てている私に不思議そうにしているノアくんを見て、ますます挙動不審になりそう。
それでもそっと抱きしめると、やっぱりこの温もりを守りたいという勝手な使命感が芽生える。
「……っ、失礼いたします」
遠慮がちな、それでも割って入らねばという決意が見えるようなノック、ジルの控えめな声。
どれも激しいものではなかったけれど、ユーリはすぐに反応し、私をドアから遠ざけた。
「……どうした」
「すぐに支度をしろ。お妃様もチビもだ」
レックス。
ユーリが開けた細い隙間からでは、二人の姿はほぼ見ることができない。
それなのに緊迫した様子が伝わってきて、思わずノアくんを抱いた腕が硬直した。
「……っ、謀反です……! 城内もどちら側につくかで混乱していて……これ以上騒ぎが大きくならないうちに、皆さまだけでも外へ……」
「……まさか、これほど急にヴァルモンドが事を構えるとは」
「いや、そうじゃない。俺もそうは思わなかったし、まさかこうなるとも思わなかった」
「……レックス。何を言っている」
いつもののらりくらりとした調子に焦れたのか、ユーリの声がやや荒くなる。
でも、レックスの表情は、きっと普段のそれとは違ったのだろう。
本当のことは言いたくない、それでも言わなくてはならない。
レックス自身、信じられないというような喉から絞り出すような声で言われたのは。
――謀反を起こしたのは、エインだ。