No Title




「オリジナルの曲やるの?」

「半々くらい。聞く人が知ってる曲をやる方が盛り上がりはするから」

「まあ、そっか。でもバンドとしてのファンもいるでしょ?」

「いるってほどじゃないけど、まあ」

「すごいね、ファンがいるって。急に別次元の人に感じる」

「なんだそれ」



蒼伊のバンドは、部活外での活動も積極的にやっているらしく、地元のライブハウスのオーナーのオジサンが良くしてくれてるらしい。
と、涼子から聞いたことがある。

ファンがいるってすごいことだ。
同い年で、今こうして普通に横にいる彼は気づいたときには遠い存在になってしまうのだろうか。




「夢があって、目標があって、やりたいことやってるって、すごいなって」

「……深咲は?」

「え?」

「やりたいこと、ねえの」

「やりたいこと、か」



将来何になりたいとか、それこそもっと子供の頃はなんとでも言えただろう。
お花屋さんになりたいとか、ケーキ屋さんになりたいとか。いろんなことを言っていた気がする。


高校生になって、初めて出された進路希望調査票。
提出期限は夏休み明け。
急に提示された将来の道に、わたしは動揺した。


やりたいこと、学びたいことなんて考えたことなかった。
今を生きているだけで精一杯なのに、こういう大人になりたいとか、考えられないって思った。

目指す大学が決まれば将来につながる?やりたいことがなかったら進学はできない?わたしには、2年後の自分が全く見えていない。

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