No Title
「……ないから、羨ましい」
「………」
「習い事とか、中学に入ってやめちゃって、得意なことも苦手なことも、何か特別自分ができることも、正直ないし。どんな大人になりたいかも、正直なんも見えない。考えもしなかったし。だから、夢のために努力ができる、その夢がある蒼伊はすごい」
バンドをやるって、いつから決めたのかとか全く知らないけれど。
屋上から聞いていた音漏れの中にいる剛くんも、蒼伊も、わたしはずっと羨ましかったのかもしれない。
「決まってるやつのほうがすくねえよ」
「え?」
「高校生で、やりたいこと決まってるやつのほうが少ない。今こうやりたいって思ってても、まだ17のガキなことには変わらねえし、やりたいことが大人になるまでに変わるかもしれない。俺はやりたいことが一つだけあって、それしかないけど。お前はまだ何にも決まってないから、選び放題だろ。そんな急がなくてもいい」
「―――、」
「進路希望調査票もらったとき、ぽかんってしてただろ」
「み、てたの」
「見えた」
「……見るなし、」
「面白い顔してたから、視界に入った」
「サイテー」
こんな顔、
わたしがその時どんな顔をしてたか再現した蒼伊の肩を思い切りはたいた。再現するにはひどい顔をしていたし。
まさかみられているなんて思わなかったのだ。そんな気の抜けた顔を見られたと思うと恥ずかしくて逃げたい。
おもしろかったと笑う彼を見ていると、怒る気もなくなってしまうけれど。