No Title
どきり、心臓が音を立てる。
分かったように剛くんはわたしを見下ろしてニヤッとする。私は首を振りながら剛くんの肩をバシッ手叩きながら「にやにやしないで」と言った。
「夏休みも部活ある日はアイツ屋上行ってるよ」
「そうなんだ」
「ミサキちゃんは部活が忙しくて行けてないみたいだね」
「なんでそんなに知ってるの」
「おれ透視能力あるから屋上透かして見てる」
「全然よくわかんない」
「わかることもあるんだよ、アイツ顔に出るから」
「顔?」
「そう。俺はミサキちゃんの知らないいろんな蒼伊の顔を知ってるからね」
「なに、剛くんが蒼伊のこと大好きって話?」
「それは間違いないんだけど、俺は涼子の方が大好き」
「え、」
突然落とされた爆弾に目を真ん丸にすれば、きょとんとされる。
遠くから蒼伊と涼子の姿が見えたので、思わず口に手を当てた。
「え?そんな驚く話じゃねえだろ」
「そんな堂々としてるとびっくりするよ」
「涼子はそういう話苦手だから、今は言ってないけど。俺はいつでもいいから」
「最優先工藤涼子だ、」
「どれだけ時間がかかっても頑張るよ、俺は」
ふたりがこちらに向かっていることに気づいたわたしたちは、声のボリュームを下げてひそひそと話していた。
それから何事もなかったようにおかえりと声をかけた私にふたりは怪訝そうだ。
「なにこそこそしてんの?」
「なんにも?」
「へえ?何話してたの?剛」
「ヒミツ。ね、ミサキちゃん」
「あ、うん」
「へーえ?」