獅子の皮を被った子猫の逃走劇
――ごくり

 緊張しすぎてずっと喉がカラカラに乾いている。
 幾度となく唾を飲みこんでも一向に潤わない。

 焦りからか、冷や汗がとめどなく吹き出ているのが分かった。


 「ぁ……」


 喉に何かがつっかえて、満足に声を出すことも叶わない。

 体育館の演台に立つ私の姿はどれほど頼りないものか。

 あの後、私は一ノ瀬先輩に連れられ入学式で次期総長としての挨拶をするように言われた。

 『む、無理です!そんなこと急に言われてもっ!』
 『その気持ちも分かるけど、君には責任があるんだよ。ごめんね』
 『そんな……』
 『大丈夫だよ。獅音くんなら出来るって信じてる。それに、隣に玲央もいるよ』


 その会話の後、すぐに押し出されて今に至るのだ。

 突然の事で何の準備もない中、目下には千人もの人がいる。
 その誰もが一身に私を見ていた。

 これまでひっそりと生きてきた私は、これ程に大勢の前で立って話す事はおろか、注目を集めた経験もない。

 一度意識してしまえばもう無理で。

 ……どうしよう、どうしよう。

 最早マイクを握る手には感覚などなかった。

 頭の中は真っ白なのに、視界はどんどん黒く染まっていく感覚がした。
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