獅子の皮を被った子猫の逃走劇
 その時だった。

 ――パンッ


 「ぇ?」
 「しっかりしろ次期総長。お前がテッペンだ、お前がルールだ。好きに暴れろ」


 私の背中を叩いて、そう告げたのは隣にいる折田先輩。

 思っていたより強く叩かれていたらしい背中は、すぐにジリジリと痛みだす。

 吐かれたセリフ一つとっても、好きに暴れろ、なんて横暴だ。
 
 折田先輩の原動は、励ましにしては大分荒っぽいものだった。

 けれど。

 私の視界は霧が晴れたように開けて、喉につっかえていたものは消えた。

 ……不思議だ。

 気づけば身体の震えも止まっていた。

 大丈夫、大丈夫。私ならできる。私がルールだ。

 大きく深呼吸をした。


 「っこの度、龍ヶ崎の総長、となりました桜庭獅音です。えっと、気に入らないとかっ、文句がある人もいると思いますが、皆さんの上に立たせていただいている身として、精一杯頑張ります!ついてきてください!」
 「「「おおー!!!」」」


 何とか終えた挨拶は、自分でも何を言ったかさえよく分からない。

 隣を見れば目を閉じている折田先輩。

 それはどっちの意味ですか……!?

 またアワアワし始める私とそっぽを向いて無言の折田先輩に、それを笑いながら見ている一ノ瀬先輩。

 体育館内には、ヤンキーたちの雄叫びが木霊していた。
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