獅子の皮を被った子猫の逃走劇


 「……横、来るか」
 「良いんですか?」
 「ん」


 そう言って隣に学ランを引いてくれる先輩。

 私の服が汚れないようにかな?

 仮にも男装姿なのに、そんなことしてくれるなんて、優しいなーって考えながら隣に座る。


 「猫ちゃん、可愛いですね、」
 「ああ」


 初めての距離にドキドキしてしまう。

 こんなに近いから先輩の香水のいい香りとか、息遣いとかをはっきり意識しちゃって。

 こんな時に限って、普段ギャーギャー騒いでる人たちは静か。

 こんなに静かだったら、
 私の心臓の音が折田先輩に聞こえちゃうんじゃない、?

 そう思ってしまうぐらいに激しく鼓動してた。


 「いたっ」


 突然の指先の痛みに、意識は現実に戻された。

 痛みの先を見ると、猫ちゃんが引っ掻いてしまったらしくて、血が滲んでいた。


 「あちゃー、やられちゃった」
 「大丈夫か」
 「よくある事ですよ、心配ありがとうございます」
 「……」


 私の怪我にすぐに反応してくれたため、そう答えると何故か黙り込む先輩。

 え、なになに。

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