獅子の皮を被った子猫の逃走劇

真実は残酷で(⚠)




 「お兄さま、やめてっ!」
 「あ?」


 女の子の声がこの部屋に木霊した。

 え、?

 この声は……。

 反射的に声の方を見ると、そこに立っていたのは希良ちゃんだった。


 今、希良ちゃんはなんて言った?


 「希良、ちゃん……?」


 私がカスカスの声でそう呼びかけると、顔を悲痛に歪める希良ちゃん。

 どうしたの?何でそんな顔しているの?

 もう頭の中では一つの可能性に行き着いてて、でもそれを必死に否定していた。

 私の勘違いに決まってるよ。
 希良ちゃんがそんなことするわけ……


 「いーねえ、女同心の安い友情劇は。……お前を嵌めたの全部あいつだぜ」
 「うそ、」
 「ホントなんだなー。な?希良」
 「……ごめんなさい」

 ただうつむき加減に、そうこぼす希良ちゃん。

 もう私はさっき蹴られた痛みなんて忘れていた。

 それよりも、なによりも。

 希良ちゃんに裏切られていたという事実が私を痛みつけた。


 「あはっ、その絶望した顔!最高だろ」


 男が何かを言っているということは分かるけど、それが何を言っているのかはよく分からなかった。

 頭に入ってこない。

 思考がストップしていた。
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