獅子の皮を被った子猫の逃走劇

荷が重すぎる

 「へえ、驚いたなー。君の名前は?」
 「わ、ぼく?」
 「君しかいないでしょ?」


 危なかった。
突然話しかけられて、危うく一人称を間違えてしまうところだった。

 今の自分は男装しているのだということを失念していた。

 改めて気を引き締めて、話しかけてきた人を見あげて、息を呑んだ。

 目の前には超ド級のイケメンが二人。
 
 一人は、深い赤髪に若葉色の双眸。

 顔立ちもなのだが、第2ボタンまで開けられたシャツから覗く肌だったり……、と全体的に艶っぽい雰囲気が漂っている。

 もう一人のそっぽを向いている彼は、ヤンキー校にしては珍しい黒髪に透き通った青紫の瞳。

 キリッとつり上がった目尻に、私の大好きな蛇っぽさを感じてつい見惚れてしまった。
 というか、横顔綺麗すぎない?

 そこでハッとする。
 そうだ、名前を聞かれていたのだ。


 「あ、えっと、桜庭獅音です」
 「獅音ね。僕は一ノ瀬 朔(いちのせ さく)、こっちの彼が折田 玲央(おりた れお)」

 
 何故私はこの人たちと自己紹介しあっているのだろうか。

 よく分からなくてただ見つめ返していると、赤髪の彼が柔和な笑顔で言った。


 「今日から君が龍ヶ崎の総長だよおめでとう。そしてようこそ、龍ヶ崎へ」
 「……へ?」
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