野いちご源氏物語 〇六 末摘花(すえつむはな)
半年が経っても、はかなく亡くなってしまった夕顔(ゆうがお)(きみ)を、源氏(げんじ)(きみ)は忘れることができずにいらっしゃった。
正妻(せいさい)である左大臣(さだいじん)()姫君(ひめぎみ)も、年上の恋人である六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)気位(きぐらい)が高い女性だから、おっとりとしてやさしかった夕顔の君が恋しくてならないの。
<どうにかして似た女性を探したいものだ。身分がそれほど高くなくて、気楽にかわいがることができる人はいないものか>
と、あいかわらずの浮気心がうずき出す。

よさそうな姫君の(うわさ)をお聞きになると、ご希望の条件を満たしそうな人には短いお手紙をお送りになる。
ほとんどの女性は簡単になびいてくるからつまらないの。
簡単にはなびきそうにない、手ごたえのある女性にだけもう一度お手紙を送られる。
でもそういう女性って、恋愛にうつつを抜かすつもりなどない生真面目(きまじめ)(おんな)ということが多いでしょう?
そうすると源氏の君なんかじゃなくて、手堅い男性と手堅い結婚をしてしまうのよね。
源氏の君は口説きかけで関係が終わってしまう。

空蝉(うつせみ)(きみ)をときどき(うら)めしく思い出される。空蝉の君の継娘(ままむすめ)もなつかしい。
<おふたりが囲碁(いご)をするところを(のぞ)()したのだったな。くつろいで楽しそうなお姿はとても魅力的だった。もう一度あのような機会はないだろうか>
などと、いつまでも昔の恋人たちを思い出しておられる。
< 1 / 20 >

この作品をシェア

pagetop