野いちご源氏物語 〇六 末摘花(すえつむはな)
源氏(げんじ)(きみ)は渡り廊下で乗り物に乗ろうとなさる。
これまではお気づきにならなかったけれど、今朝は雪明かりで建物の傷みが目立つの。
<あれは去年だったか、雨の夜に内裏(だいり)女性(じょせい)談義(だんぎ)をしたのだったな。頭中将(とうのちゅうじょう)や若い貴族たちがあれこれ話していたなかで、荒れた屋敷にひっそりと住んでいる思いがけない美人がよいという話が出た。それはまさにこんな屋敷だろうが、住んでいる人が違いすぎる。もしここにかわいらしい恋人が住んでいたら、藤壺(ふじつぼ)女御(にょうご)様への許されぬ思いは断ち切れるだろうか。
それにしても、他の男ならばあんな姫君などすぐに捨ててしまったであろう。亡き常陸(ひたち)(みや)様が姫君(ひめぎみ)を残していくことをご心配なさるあまり、私をお導きになったのかもしれない>
と、恐れ多くお思いになる。
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