【電子書籍化】初夜に「きみを愛すことはできない」と言われたので、こちらから押し倒してみました。 〜妖精姫は、獣人王子のつがいになりたい〜

過去のこと

 とろりとした柔らかな眠りの中で、ルフィナは夢を見ていた。
 それは、アルデイルに嫁ぐ前、カミルと初めて会った時のこと。
 
 その日、ルフィナは城の廊下をドレスの裾を翻して走っていた。もしも誰かに見られたなら、はしたないと眉を顰められるくらい優雅さに欠ける行動。だけどこんな王宮の端には、ほとんど人がいないから平気だ。

 王女らしからぬ速さで廊下を駆けているのは、早く自室に戻りたいからだ。庭でのんびり花を愛でていたら、突然兄がこちらへ向かっているとの連絡を受けたのだ。ルフィナのことを嫌っている彼がわざわざ訪ねてくるということは、何か大事な用件がある可能性が高い。

 急いで戻らなければ、また叱責されてしまう。先触れもなく訪問してくる兄の方が礼儀に欠けるはずだが、それを指摘できるわけもない。
 いつもはもう少し身軽なのだが、今日は両手いっぱいに花を抱えているからあまり速く走れない。この時期に満開を迎えるリリベルの花は、ルフィナのお気に入りだ。真っ白な釣鐘状の小さな花が揺れるたび、甘く爽やかな香りがする。
 本当なら、もっとのんびりと他の花も見て回りたかったのにと思いつつ、ルフィナは廊下を急ぐ。

 角を曲がったところで部屋の前に背の高い黒髪の男が立っているのが見えて、ルフィナは慌てて足を止めた。深く頭を下げつつ、さりげなく乱れた呼吸を整える。ぎりぎり間に合うかと思ったが、残念ながら彼の到着の方が一足早かったようだ。

「ごきげんよう、ヴァルラムお兄様」

「どこに行っていた、ルフィナ」
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