【電子書籍化】初夜に「きみを愛すことはできない」と言われたので、こちらから押し倒してみました。 〜妖精姫は、獣人王子のつがいになりたい〜
 ヴァルラムは笑顔を浮かべているが、目は全く笑っていない。ルフィナをのぞき込むその瞳の奥には、燃えるような憎悪がちらついている。ここまで嫌うなら構ってくれなくていいのに、彼は時々ルフィナの前に姿をあらわしてはこうして嫌味を言ってくる。

「かしこまりました。お兄様の期待に応えられるよう、努力します」

 そう言って微笑んでみせれば、ヴァルラムは蔑むような目をしながらもうなずいた。


 兄の姿が見えなくなってから、ルフィナは深いため息をつく。何度か瞬きをすると、ぽろりと涙が頬を滑り落ちて行った。
 ヴァルラムの前では、ルフィナはか弱く従順な王女を演じている。噓泣きだって、お手の物だ。
 それは、この王宮で生きていくために必要な処世術。母親代わりに育ててくれた乳母が教えてくれたことだ。

 卑しい生まれの者に教育など必要ないと、ルフィナは人前に出て恥ずかしくない程度の最低限のマナーしか教わらなかった。それを憂いた乳母によって密かに様々な教育をうけたが、ヴァルラムはきっとルフィナのことを見てくれだけで頭の空っぽなバカな女だと思っているに違いない。そしてそれを否定しないよう、ルフィナは彼の前ではただにこにこと微笑むだけの無害な妹であろうとしている。

 本来のルフィナはか弱いどころか図太い神経の持ち主だし、それなりに知識は蓄えている。だが、それを表に出していいことなんてひとつもない。

「はぁ。本当に……お兄様ったら、嫌いなら放っておいてくれたらいいのに。わざわざご自分で訪ねてらっしゃるなんて、暇なのかしら」
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