さよならの前に抱きしめて
「えと…っ。これ、は」


どうしよう、こんな所で遭遇するなんて思いもしてなかった。
何か会話……話題!とにかく話さなきゃ。


いきなりのことに動揺して、掠れる声から次の言葉が出てこない。


慌てる私の視線は、左右へ動いては正面を戻って、を繰り返す。
一方で、みゃーは甘え声で私の指先に口を当てるけど、今はかまってられないんだ。ごめんね。


だって…小鳥遊くんいるし。どうしていいかわかんないんだもん。


「実はこの子、公園でお世話してるんだ」


「へへ」と、私はだらしのない眉を下げた笑った。


「名前は?」

「みゃーって言うの。鳴き声が“みゃー”だから…。ネコって“にゃー”って鳴くのかと思ってた…」

「ははっ。すごい理由」


わ…。小鳥遊くんって、こんな顔もするんだ。


視線の先に映るのは、私がはじめて見た彼の表情。
子供みたいに、無邪気に笑う姿から目が離せない。

ビー玉が転がるように、ころんと胸が鳴った。


不覚にも、ときめいちゃったよ。熱があるみたいに、体が熱いな。
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