さよならの前に抱きしめて
問いかけるように聞いても、答えは返ってこない。
それは、私しか知らないことだから。


「小鳥遊くんは席が隣なだけだよ。沙耶佳ちゃんが気にすることないから」

「たまたま会っただけなの!」


もう、口にしている言葉も、わけがわからなくてウソみたい。

『気にすることないから』と最後に紡いだ言葉が、私を苦しめた。と、沙耶佳ちゃんが突然声を張り上げた。

らしくない言動に、びくりと肩が跳ねる。
同時に頭が覚めたんだ。

いつも朗らかな沙耶佳ちゃんが、私の機嫌を直そうと、さきほどから何度も否定を繰り返す。

だけど、今にも泣きそうな表情で口を覆った。


「ごめんね」


掠れた声で言うと教室へ走って行ったのだった。
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