さよならの前に抱きしめて
椅子をゆっくり引くと、誰一人話し声が響かない広い箱の中で、私のガタと掠れた音が響いて恥ずかしい。…仕方ないけど、床へ落ちた消しゴムへ手を伸ばした。



「あ…」

「都倉さん、落としたよ」



と、視線の先に私以外の細長い指が飛び込んだ。同時に、声が降ってくる。


小鳥遊くんだ。彼が私より先に拾ってくれた。


どうしてか鼓動がとくん、と鳴る。


私ね、小鳥遊くんの声ちゃんと聞いたのはじめてかも。


休み時間に友達と喋ってるのは知ってるけど、声は周りの音に消されてたから。


柔らかくて優しくて、春の陽だまりみたいな声は、一回しか聞いてないけど、耳の奥まで残って忘れられない。


小鳥遊くんの声、好きだな──…
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