あやめお嬢様はガンコ者
「あやめさん、お先に失礼しますね」
定時の18時になると、由香里ちゃんがデスク周りを片づけて立ち上がった。
「うん、お疲れ様。気をつけて帰ってね」
「はい。それでは失礼します」
由香里ちゃんが出て行くと、次々と他の社員も挨拶しながら退社して行く。
私は一人になったオフィスでクールダウンしながら作業の確認をするのが、毎日のルーティーンになっていた。
作った資料を見返し、やり残した仕事はないか、次の締め切りまでにどの作業を優先するか、などを頭の中で整理する。
ハーブティーを飲みながら気持ちに余裕がある状態で仕事を振り返るのが、私なりの仕事に向き合うポイントだった。
「よし!今日はここまで」
トントンと資料を揃えてファイルにしまい、時計を見上げると19時5分前だった。
(久瀬くん、私がいつもこの時間に退社してるのを知ってたのかしら?)
そう思いながら帰り支度をしてエレベーターで1階に下りる。
静まり返ったエントランスホールを横切ると、ソファに座ってタブレットを見ている久瀬くんの姿があった。
「久瀬くん、お疲れ様です」
「あやめさん!お疲れ様です」
声をかけると久瀬くんは顔を上げてにっこりと笑う。
「では早速帰りましょうか」
タブレットをカバンにしまって立ち上がる久瀬くんに、私はもう一度念を押した。
「久瀬くん、本当に一人で帰れます。お気遣いだけ頂いて、私はここで失礼します」
「では俺は、あやめさんの2メートル後ろを黙ってついて行きます。どうぞお構いなく」
はい!?と私は声を上ずらせた。
「そんな、ストーカーだと間違われては大変ですから」
「じゃあ普通に横に並んで歩いてもいいですか?」
「いえいえ、ですから。私は一人で帰ります」
「あやめさんの身に何かあってはいけませんから」
「何もありません。これまでだって何もなかったのですから」
すると久瀬くんは改めて私に向き直り、真剣な表情で口を開く。
「あやめさん。これまで何もなかったから、というのは何の根拠にもなりませんよ。この先も何もないという保証がどこにあるんですか?」
「えっと、それは……」
「ご実家には戻らないとあやめさんが言い張るなら、俺も毎日送り迎えをすると言い張ります。では行きましょう」
そう言ってスタスタと歩き始めた久瀬くんを、私は仕方なく追いかけた。
定時の18時になると、由香里ちゃんがデスク周りを片づけて立ち上がった。
「うん、お疲れ様。気をつけて帰ってね」
「はい。それでは失礼します」
由香里ちゃんが出て行くと、次々と他の社員も挨拶しながら退社して行く。
私は一人になったオフィスでクールダウンしながら作業の確認をするのが、毎日のルーティーンになっていた。
作った資料を見返し、やり残した仕事はないか、次の締め切りまでにどの作業を優先するか、などを頭の中で整理する。
ハーブティーを飲みながら気持ちに余裕がある状態で仕事を振り返るのが、私なりの仕事に向き合うポイントだった。
「よし!今日はここまで」
トントンと資料を揃えてファイルにしまい、時計を見上げると19時5分前だった。
(久瀬くん、私がいつもこの時間に退社してるのを知ってたのかしら?)
そう思いながら帰り支度をしてエレベーターで1階に下りる。
静まり返ったエントランスホールを横切ると、ソファに座ってタブレットを見ている久瀬くんの姿があった。
「久瀬くん、お疲れ様です」
「あやめさん!お疲れ様です」
声をかけると久瀬くんは顔を上げてにっこりと笑う。
「では早速帰りましょうか」
タブレットをカバンにしまって立ち上がる久瀬くんに、私はもう一度念を押した。
「久瀬くん、本当に一人で帰れます。お気遣いだけ頂いて、私はここで失礼します」
「では俺は、あやめさんの2メートル後ろを黙ってついて行きます。どうぞお構いなく」
はい!?と私は声を上ずらせた。
「そんな、ストーカーだと間違われては大変ですから」
「じゃあ普通に横に並んで歩いてもいいですか?」
「いえいえ、ですから。私は一人で帰ります」
「あやめさんの身に何かあってはいけませんから」
「何もありません。これまでだって何もなかったのですから」
すると久瀬くんは改めて私に向き直り、真剣な表情で口を開く。
「あやめさん。これまで何もなかったから、というのは何の根拠にもなりませんよ。この先も何もないという保証がどこにあるんですか?」
「えっと、それは……」
「ご実家には戻らないとあやめさんが言い張るなら、俺も毎日送り迎えをすると言い張ります。では行きましょう」
そう言ってスタスタと歩き始めた久瀬くんを、私は仕方なく追いかけた。