あやめお嬢様はガンコ者
「あの人だよね?新しい部署の部長って」

発表の日を境に、俺は社内を歩くたびにヒソヒソとささやかれるようになった。

「若いのにすごいね。しかもかっこいい!」
「ハイスペイケメン!アタックしちゃおうか」

女子達のそんな声の中、露骨にジロジロ観察するような課長クラスの男性社員の視線も感じる。
分かっていたことだから、そこまで気にはならない。
だが社内でこの新部署が煙たがられるのは嫌だった。

グローバルマーケティング部とグローバルライセンス部は、今後間違いなくこの会社で必要になってくる。
社員の皆さんにも、身近に感じてもらう必要があった。

俺はどうするべきかと考え、あやめさん、原口さん、東に提案してみた。

「え?立候補を募るのですか?」
「はい。この部署に興味がある人、この仕事をやってみたい人を全社員から募ります。熱意や考えを聞き、その上でそれに相応しい役職についてもらうのはどうでしょうか?係長、課長だけでなく、部長補佐も複数人いてもいいかもしれない」

影で噂されるくらいなら門戸を開き、ぜひこちら側に来てほしい。
俺はそう考えていた。

「うん、いい考えだと思う」

まずは原口さんが同意してくれる。

「俺達だけでは、やはり経験不足で全体の動きを把握出来ていない。年齢差関係なく、やはり経歴の長い人に入ってもらいたい。その人が気にするようなら、俺は部長補佐を退いて課長になるよ」
「えっ、そんな!」
「いや、本当にそう思う。大事なのは役職じゃない。このチームみんなで協力して何をやるかだ。その一員としての俺の役職なんて、二の次だ」

原口さん……と俺は言葉に詰まる。

「私もです。大体、部長補佐なんて仰々しくて気恥ずかしいんですよね。まだうら若い私がそんなおじさんのポジションって」
「おじさん!?」

東の言葉に、あやめさんが声を上げた。

「部長補佐がおじさんなら、部長はおじいさんなの?」
「まさか!違いますよ。あやめさんが部長なんて、かっこよさしかありません。私の憧れですから、あやめさんは。あやめさんにならどこまでもついて行きますよ、私」

由香里ちゃん……と、あやめさんも感慨深げに呟く。

四人で改めて意見をまとめてから、俺はあやめさんと一緒に社長に相談に行く。
全て任せる、やりたいようにやりなさいと言われて、俺達は全社員に新部署メンバーの立候補を募ることにした。
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