あやめお嬢様はガンコ者
「おはようございます、あやめさん」
「おはようございます、久瀬くん」

翌朝。
いつも通りの挨拶で仕事を始める。
普段と変わりなく見えるが、時折そっと俺の様子をうかがうようなあやめさんの視線を感じて、俺は心の中でほくそ笑む。

今夜も一緒にいたい。
どうやって誘おうか。
どこに連れて行こうか。

やはりあやめさんは、俺とのことを周囲に内緒にするらしく、東とも普段通りの会話しかしていない。
それならそれで、俺もいつものように振る舞おう。
たまにアイコンタクトを取ったりして、秘密の関係を楽しむのも悪くない。
妙な余裕が俺には生まれていた。

「東、確かここのお菓子好きだっただろ?」

昼休みに駅ビルに行った俺は、買ってきた洋菓子の詰め合わせを東に手渡した。

「え、そうだけど。どうしたの?これ」
「東に。日頃の感謝を込めて」
「ええー?急に何?でも嬉しい!ありがたくいただくね」
「ああ」

理由は濁したが、東のおかげで俺はあやめさんと両想いになれた。
それにあやめさんが以前一度だけ綺麗な装いで出社して来た時も、東が服を選んだと言っていた。
東には本当に感謝している。
これからもあやめさんの良き相談相手であって欲しい。
二人が早速お菓子を選びながら楽しそうに笑っているのを、俺は微笑ましく見守った。
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