色恋沙汰はどこまでも
「ただいま」
あれ、この靴誰のだろう。見覚えのない男物の靴が玄関に並んでて、逆に見覚えのある靴が1足もないってどういうこと?ていうか、お父さんとお母さんは?
「うす。お帰りなさい、凛子さん」
「ただいま。龍来てたのー?お母さんとお父さんは?」
「おやっさんから聞いてないんすか」
「え、なにを?」
相変わらずテンション低くて気だるそうにしてるのは、年下の私にも敬語を使う伏見龍(ふしみりゅう)。かくかくしかじかでお父さんが経営する建設会社で働くことになってもう4~5年かな?はじめて出会った時、まだ龍が今の私くらいの年齢で、私がまだ小学生だったもんな。今じゃ家族っていうか男友達みたいなもん。
「おやっさん達しばらく地方に出払うんで、俺が凛子さんの世話役押し付けられたんすよ」
「いや、言い方よ」
「だって凛子さん、なんにもできないじゃないすか」
「無粋な方ですね。凛子様は勉学と家事炊事以外はパーフェクトなお方なのです。無礼者はお下がりください」
おい、日髙。それなんのフォローにもなってないし、しれっとディスんな無礼者が。私だってやろうと思えばできるし……たぶん。ていうか、こうなったのも全部お父さんとお母さんのせいだし。『包丁握る暇あんなら握り拳振りかざしてこい!』『洗濯のボタン押す元気あんならテッペン獲ってこい!』『掃除機引き摺ってねぇで野郎共引き摺ってこい!』等々、もうイカれてんのよ。こんな家庭環境で普通の女が出来上がるわけがないでしょ。