(二)この世界ごと愛したい
私に嫌われることを何より恐れるハルは、至って真剣におーちゃんに怒る。
「…アホくさ。」
「この世はアホと言う奴がアホだと相場は決まってる。リンの言葉だ。胸に刻め。」
「お前鬼人やろ!?戦好きのイカれた男やろ!?」
「戦はまあ…嫌いではねえけど。強い奴と戦うのは面白え。」
「ほなさっさと表出んかい。」
「だが、俺はリンより好きなものはねえ。戦で唯一嫌なのはリンと離れることだ。」
あまりの溺愛っぷりにもう呆れるしかない。
それはおーちゃんとカイ、そしてトキ。
慣れに慣れたるうは最早何も感じず、アキトは周囲とは別の感情を抱いていた。
「ハル、馬車回してるけど。そこまでリン抱えて行けるか。」
「誰に聞いてんだお前。」
「もう目も当てられねえくらい怪我してんだろ。リンに言わなかっただけ有り難く思って二人で乗ってろ。」
「…あーうるせ。」
私を抱えて立ち上がるハルの脇腹からは、既に血が滲み出て。
その血で私が汚れないように、外套で包み直す。
「おい。」
「…俺っ!?」
ハルは不意にアキトに声を掛ける。
「この俺と、口が聞ける場はそうはねえ。」
「……。」
「言いてえことがあるなら今だけ聞いてやる。」
通じるものがあるこの二人。
私はハルとアキトは本当に良く似ていると思うんだ。
「じゃあ。」
ハルにこれ程間近で会えた感動。
ハルと私の関係性を見て、アキトが感じたことは何なのか。
「勝った奴が正義なら、俺は超えたい。」
このアキトの言葉の意味を、ただ一人。
理解出来るのはハルだけ。
「俺を超えてえなら、もう百戦は勝って来い。百一戦目に相手になってやるよ。」
「うわ…聞いたかトキ!?」
「聞いたよ。どうすんの。俺この人と戦うの疲れそうで嫌だよ。」
「シオン弟、安心しろ。その時俺は逃げも隠れもしねえ。真正面、その最前線で待ってる。」
つまり。
アキトと戦う時は、真っ向勝負。戦略も作戦もなしに、ただそこで待つと明言したハル。
「リンはお前に懐いたろ。」
「懐くと言うか…。」
「理由が分かるか。」
「分かるような、分かりたくないような…。」
私がアキトに安心感を覚えたのは、その温もりがハルに似ているからだと。
アキトも、私もそう思っていた。
「リンはお前に、未来を見たんだ。」
「え、結婚?」
「張り倒すぞ!?」