幼なじみと黒歴史~初心な天使が闇落ちした理由は私です(マンガシナリオ)

#14 一秒先でも好きでいたい

○莉恋の部屋(真っ暗)
  暗い部屋の窓から、暮れ始めた夕陽を観る莉恋
  虚無な目の奥
  天馬との会話を回想して物憂げに首を傾ける

○(回想)スポーツショップ

 天馬「驚かせて、ゴメン。」

  申し訳ない顏の天馬
 
 天馬「留学は、転校する前から決まってたんだ。隼おじに、出世払いで全面協力するって勧められて。」

  怒った口調で責める莉恋

 莉恋「そんな大事な話、なんで早く言ってくれなかったの?」
 天馬「莉恋と付き合うことになってから、ずっと悩んでたんだ・・・4年は長いから。」

  怒られた子犬みたいにシュンとする天馬
  血の気が引く莉恋

 莉恋「それって、私のために夢を諦めようと思ってるってこと?」
 天馬「莉恋のせいにしたくなかったから、言いたくなかった。」
 莉恋「そんなの、余計にひどいよ。」
 天馬「でも、俺もどうしていいかわかんなくて。」
 莉恋「わかんないって・・・俺が戻るまで待っててくれとか、言ってくれないの?」

  苛立つ莉恋
  切ない顔の天馬

 天馬「莉恋の大事な青春時代を、俺の都合で捧げてなんて言えないよ。」

  震えながらうつむく莉恋
 
 莉恋「じゃあ、もう答えはひとつだね・・・私たち、別れるしかないじゃん!」

  口ごもる天馬 天馬に買い物袋を投げつける莉恋 そのまま走り去る 

※(回想終了)


○莉恋の部屋(真っ暗)
  落ち込む莉恋
  膝を抱えてつぶやく

 莉恋「サイテー・・・。」


○莉恋の家の階段
  泣きはらし、顏が腫れた莉恋
  階段を降りていると、一階の居間から莉恋ママの話声が聞こえる

〇莉恋の家の居間
  莉恋ママが、体面キッチンのカウンターに身を預けてスマホで電話中

  莉恋ママ「ありがとう。気持ちは嬉しい・・・けど、籍はやっぱり莉恋に聞いてからだね。うん、ごめんね・・・。」

  莉恋が居間の扉を開けると、慌てて電話を隠す莉恋ママ

 莉恋ママ「おっ、おかえり! 二階の部屋の電気が点いていなかったから、まだ帰ってないのかと思った。」

  あたふたしている莉恋ママ
  ため息を吐く莉恋

 莉恋「若松さんと電話してたんでしょ?」
 莉恋ママ「あら、どうして分かったの?」
 莉恋「分かるよ。いつもよりヘラヘラしてるから。」

  とろけるように照れ笑いをする莉恋ママ

 莉恋ママ「当たり。エヘヘ。」
 莉恋「若松さんと・・・再婚するの?」

  台所に立って、背中越しに話す莉恋ママ

 莉恋ママ「あ・・・聞こえちゃった?」
 莉恋「別に私は嫌じゃないよ、若松さんのこと。」

 驚いた顏で振り向く莉恋ママ

 莉恋ママ「ホント?」
 莉恋「でも・・・ママにひとつだけ聞きたいことがあるの。」

  苦しそうに言葉を吐き出す莉恋

 莉恋「ママは、若松さんと結婚したら、パパを好きだったことは忘れちゃうの?」
 莉恋ママ「それはない。」

  きっぱりと断言する莉恋ママ

 莉恋ママ「なんでそう思ったの?」
 莉恋「だって、昔からママは莉恋に死んだパパのこと、あんまり話してくれないじゃない。」
 莉恋ママ「・・・話したくないからじゃなくて、話せなかったの。」
 莉恋「何で?」
 莉恋ママ「うーん、今日はしつこいね。もしかして天馬と何かあったの?」
 莉恋「いや・・・別に。」
 莉恋ママ「ハァ・・・。これが潮時ってヤツなのかな。」

  眉間にシワを寄せていた莉恋ママ 重い口をゆっくりと開く

 莉恋ママ「あのね、パパとママは幼なじみだったの。」
 莉恋ママ「物心ついたときから朝から晩まで一緒に居て、兄妹みたいに育った。趣味も夢も昨日のテストの点数まで、パパのことで知らないことは何ひとつなかったの。だから、物心ついた時にママがパパに告白したのも、ごく自然なことだった。」
 莉恋ママ「でも、本当はひとつだけ、パパはママに隠していることがあったんだ。」

  目をふせる莉恋ママ

 莉恋ママ「それは、進行性の難病を患ってること。」
 莉恋「難病?」

 莉恋ママ「本当にね、ショックだった。パパにはママを不幸にしたくないから、恋人にはなれないって言われたの。
でもね、ママにとってはパパと今を一緒に生きられないことが不幸なんだ・・・って、すぐに言い返してやったんだ。」
 
 莉恋「ママらしい。」

  鼻息を荒くして話す莉恋ママに、莉恋がクスリと笑う

 莉恋ママ「莉恋がお腹に宿ったことを知ったときね、パパは本当に喜んでくれたの。その顔を見た時、ああ、この人を愛した証が残せて良かったって素直に思えたな。
 結局、パパは莉恋を抱く前に病状が急変して、入院したままお空の星になっちゃった。でもね、ママは莉恋の元気な産声を聞いたとき、きっと天国のパパにまで届いたと思うんだ。
 だから、莉恋の元気な笑い声を聞くたびに、パパも空の上で笑ってるだろうなーって、想像ができるの。」

 莉恋「・・・。」
 莉恋ママ「だからどんなにママが仕事で落ち込んで疲れ果てても、莉恋の笑顔を見れば元気になるのよ。莉恋はパパがママにプレゼントしてくれた最高の娘だから。」
 莉恋「ママ・・・ゴメ・・・。」

  嗚咽と涙が止まらない莉恋

 莉恋「私・・・ずっと親ガチャ失敗してて、自分が不幸だと思ってた。ゴメン・・・本当にゴメンなさい。」
 莉恋ママ「ママもずっとね、パパのことを莉恋に伝える勇気がなかったの。莉恋にツライ思いさせてたんだね。こっちこそ、ゴメン。」

  泣き笑いの莉恋ママが、ギュッと莉恋を抱きしめる

 莉恋ママ「莉恋、イイ子に育ってくれて、ありがとう!」


〇莉恋の家の居間に夕陽のオレンジが入り込んでくる
  
  泣きじゃくりながら天馬のことを想う莉恋

 莉恋(パパがママに生きる力をプレゼントしたように、私が天馬にしてあげられることはないのかな?)


○天馬の家の外観 分譲マンションの2階

  オレンジの夕陽を観ながら、ベランダで隼人と電話をしている天馬

 隼人「ウェーイ。どうした?」
 天馬「あのさ・・・留学のことなんだけど、俺、やっぱり・・・。」

  目線を下の道路に投げた途端、走ってくる莉恋に気づく天馬
  ベランダの天馬に気づいて手を振る莉恋

 莉恋「おーい!」
 天馬「ちょ、待って・・・え、莉恋! いや、なんで!?」
 莉恋「待ってるー!」
 天馬「え?」
 莉恋「てんまー、私ね、決めたよー!」
 
  スマホを耳から外す天馬
  耳に手を当てるリアクション

 天馬「なに? 聞こえない。」

  莉恋が笑いながらスマホをバックから出す

 天馬「悪い、あとでかけ直す!」

  天馬、隼人の電話を切って莉恋のコールを待つ

 電話の着信音「プルル・・・」

  ワンコ―ルで電話を受ける天馬

 天馬「もしもし?」
 莉恋「あのね、よく考えたんだけど、やっぱり私、天馬のことが好きだったの!」

  衝撃でよろめく天馬
  ドキドキしながら片手を腰に当てる

 天馬「ッ・・・それはとても嬉しい。でもなんで?」
 莉恋「だから、別れるなんてできない! 遠距離でも恋人でいてください‼」

  大声で話す莉恋
  電話を持ったまま、部屋に入る天馬

 天馬「遠距離って・・・オーストラリアだぜ? なかなか会えないんだよ。」
 莉恋「うん。」
 天馬「・・・お互いに気持ちが変わったらどうするの?」
 莉恋「それは、困るかな。」
 莉恋「でも今だけは、天馬を好きって気持ちを手放したくないの。一秒先でも、天馬を好きでいたい!」
 天馬「莉恋、うしろ。」

  いつの間にかスマホを持ったまま莉恋のうしろに居た天馬が莉恋を抱きしめる
 
 天馬「俺も莉恋を好きでいたい。待っててほしい。」
 莉恋「うん、ありがと。そう言って欲しかったんだ。」

  莉恋、天馬に向き合って歯を見せて笑いかける。
  天馬がグチャグチャの泣き顔で莉恋にアツく話す。 

 天馬「もしも、お互いの気持ちがさめて離れ離れになることがあっても、4年後の今日のこの時間、中学校の音楽教室に来て。
 絶対に行くから。」
 莉恋「やだ、淋しいこと言わないで。」
 天馬「約束して。」
 莉恋「約束する。」

 天馬と莉恋が指切りげんまんをする
 夕闇が二人を包んで、その姿を徐々に溶かしていく
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