幼なじみと黒歴史~初心な天使が闇落ちした理由は私です(マンガシナリオ)

#9 海のにおいと波の音

〇晴天 きらめく白波が打ち寄せる海 
 (ウエットスーツ姿の莉恋 ウエットスーツにサーフボードを持つ天馬と隼人)
  北から海風が吹いていて、肩~頭くらいの厚くて崩れにくい波が立っている
  サーファーたちが砂浜でサーフボードにワックスを塗ったり、準備運動をして海に入る段取りをしている

 莉恋「潮のにおいと波の音・・・気持ちいい‼」
  
  鼻をひくつかせる莉恋
  莉恋の隣に立つ隼人

 隼人「サーフィンは夏のスポーツと思ってる人も多いけど、俺は秋のほうがアツいと思う。南風から北風に変わる分、オフショアの波に乗れるからね。」
 天馬「冬でも海に入る人間が、何言ってんの。」

  ボードにワックスを塗る天馬が横から隼人を煽る
  天馬に聞かれないように莉恋の耳元で喋る隼人

 隼人「結果、海は人が少ないほうがいいってハナシな。俺は波キチだからね。」

  隼人と莉恋の間にボードを持って割って入る天馬
  天馬が、莉恋にワックスを塗ったばかりのボディボードを渡す

 天馬「莉恋は初心者だから、ボディボードからいってみようか。」
 莉恋「プールで使うビート板みたいだね。」
 天馬「そう。これは基本、腹ばいで波に乗るボードなんだ。板の上に立たないから、波をつかみやすいと思う。」
 莉恋「じゃ、行こっ!」

  海に向かおうとした莉恋の首根っこを持つ天馬

 天馬「海をナメんな。テイクオフも知らんヤツが波に乗れるか。まずは陸上でレクチャーするから、そこに座って。」
 莉恋「サーフィンより簡単なんでしょ?」
 天馬「波に乗るのもルールがあるんだ。ヘタしたらローカルサーファーにボコられるぞ。」

  もめる莉恋と天馬
  身支度を終えて海にさっさと入る隼人

 隼人「じゃ、莉恋ちゃんの指導をよろしく。俺は沖にいる友だちとライディングしてくるね。チャオー♪」
 莉恋「ああっ、隼人さま、待ってー!」
 天馬「秒で死ぬぞ。」

  闇堕ちモードの天馬
  ビビってすくむ莉恋

 莉恋(この闇堕ち野獣に、私を任せて行かないでー!)


〇厚くて崩れにくい波の立つ海
  陸上でフィンを着けたバタ足と、波を潜るドルフィンスルーをコーチングされ、いよいよ海に入る莉恋

  沖に出るために波を海の下で潜ろうとするが、波の回転に巻き込まれて岸近くまで押し戻されてしまう
  ボードが浮きがわりになり、海上に浮上する莉恋

 莉恋「プハッ! 」

 浮上した莉恋 心配してパドリングで近づく天馬

 天馬「大丈夫か?」
 莉恋「波の力ってスゴイね! ドルフィンスルーが上手くできなくて、洗濯物みたいになっちゃった!」
 天馬「タイミングなんだよな。思ってるより深く沈んだほうがいい。小さい波なら、ノーズを持ち上げて躱すのもアリだよ。」
 莉恋「波に乗るどころか、沖に出るのも大変なんだね。」

  ボードの上に跨り体を浮かべながら、沖を見て波待ちする莉恋
  隼人がライディングに成功して、波を引き連れて岸までボードを走らせる

 莉恋「やーん、隼人さまって、何でもできるんだぁ♡」
 天馬「俺にも、あれくらいできるっての。」
 莉恋「何言ってんの。素材が違うんだから、張り合わなくてもいいでしょ。」
  
  闇落ち顔の天馬 莉恋に水しぶきをかける

 莉恋「ワッ、プッ、やめてよ!」

  急に舌打ちして波に向かってパドリングする天馬

 莉恋「ちょ、天馬?」
 天馬「よそ見すんなよ!」
 
  テイクオフ成功、波を滑りながらライディングをする天馬 そのままトップへのボトムターンを決め、波しぶきを浴びながら岸へと戻っていく

 莉恋「ウソでしょ。あんなヤツがカッコよく見えるなんて・・・。」
  
  
〇海の沖に佇んで波待ちをしている莉恋(昼) 
  太陽が頭の真上に来る
  沖に出た莉恋 隼人の言葉を思い出す

 隼人(言葉だけ)(波のリップがメラメラしたら、それが合図だ。)

 莉恋(今だ!)

  大きな波に乗る(押される)莉恋
  大自然のパワーに感動する

 莉恋(やった! 私いま、波にすごい力で押されてる・・・!)
   
  嬉しい半面、頭が真っ白になる莉恋 

 莉恋(あれ・・・でも、これからどうすればいいんだっけ?)

  ボードの操作が維持できなくて、波にのまれる莉恋 笑顔で岸に戻る


〇砂浜
  先に岸に上がっていた天馬とハイタッチする

 莉恋「今の、見てた⁉」
 天馬「やったな! 感想は?」
 莉恋「地球の引力の壮大さを身体で感じた! 自分が小さい生き物だって、肌で感じた!」

  興奮ぎみの莉恋
   
 天馬「ちっちゃい悩みなんて、海に来たらどうでもよくなるよな。」
   
  遠い目で波を見つめる天馬
  
 莉恋「天馬が言ってた『私に見せたいもの』って、こういうことだったの?」
 天馬「いや、それは夜のおたのしみ。次は・・・。」
 莉恋「ごめん。ちょっと疲れたから、浜で休憩してる。」
 天馬「じゃ、見てて。デカイ波つかまえてくるから。」


〇砂浜
  体育座りで休憩をしている莉恋 
  波をつかまえてライディングする天馬の姿を、つい目で追ってしまう。

 莉恋(ハッ、だめじゃん、私⁉ )

  自分の両頬をパチンと叩く莉恋

 莉恋(黒歴史のある私を脅して、恋人ごっこをしてからかってる男だよ? 乙女ゲームなら、どう考えても破滅ルートまっしぐらじゃん!)

  妄想を振り払って、あわあわしている莉恋
  肩まである濡れ髪を束ねた隼人が、いつのまにか隣に来て座る

 隼人「莉恋ちゃん、どう、楽しんでる?」
 莉恋「ハイ! 一回だけ、沖に出て波にも押されました!」
 隼人「波に乗ったんじゃなく、押されたの?」
 莉恋「乗ってるというより、押してもらってるって感じ。隼人さまや天馬みたいにうまくボードを操れたら、もっと気持ちいいんでしょうね!」
 隼人「へぇ、そういう感覚って大事だよね。初回でそれはスゴイじゃん!」

 莉恋(推しに褒められる人生・・・悔いなし!)

 隼人「遠目で見てたけど、天馬はスパルタだったねぇ。」
 莉恋「どういう意味ですか?」
 隼人「アレ、見てみて。」
  
  岸のすぐ手前の白波で、戯れる女子の団体を指さす隼人
  ボディボードを手にした女子たちは、手前の白波に乗ってキャッキャと喜んでいる
  キョトンとする莉恋
  
 莉恋「あの人たち、何してるんですか?」
 隼人「あれも、ボディボード。」
 莉恋「エエッ、あれが⁉ 沖に出なくてもいいの?」
 隼人「初心者には、フツー沖まで行かせないと思うけどね。鬼コーチにつき合ってあげて、エライね莉恋ちゃん。」
 莉恋「私・・・波に巻き込まれて水飲んで、洗濯物みたいにグルグルになったのに?」
 隼人「ハハ、 莉恋ちゃん、めっちゃイイ子すぎでしょ。」

 莉恋(このボディボード体験すら、天馬には復讐のシナリオだったのね! やっぱり天馬・・・恐ろしい子‼)
   
  唖然とする莉恋に、顏をのぞきこんで優しく微笑む天馬
 
 隼人「天馬のこと、末永くよろしくね。」
 莉恋「もともとだけど、今の話で醒めちゃったんで、即、別れます。」
 隼人「それ、完全に俺のせいな。天馬がかわいそうだから、やめたげて。」

  スッと真面目な顔をする隼人

 隼人「天馬はあまり口にしないけど、莉恋ちゃんを大事に思ってるはずだから。」

  隼人の話に共感できない莉恋は、重い口を開く

 莉恋「・・・本当のこと言うと、私たち、純粋な恋人じゃないんです。」
 隼人「偽装恋愛ってこと?」
 莉恋「うーん、それに近いかも。」
 隼人「そうか・・・。まあ、それでも俺は、莉恋ちゃんに天馬のことをお願いしたいかな。」

  隼人、意味ありげに沖で波を待つ天馬を見つめる
  つられて天馬を見つめる莉恋

 莉恋「どうしてですか? 天馬はカッコイイし世渡り上手だし、私より似合う女の子いっぱい居ると思います。」
 隼人「多分だけど・・・。」

  莉恋の耳元に口元を寄せる隼人

 隼人「天馬が言ってた『好きすぎて忘れられない幼なじみ』って、莉恋ちゃんのことだと思うんだよね。」
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