苦くも柔い恋



「千晃、待って!」

「…何」


振り返った千晃の首筋には汗が幾つも流れ落ちていた。

姉の失態とはいえわざわざ足を運んでくれたのに、このまま帰してしまうのも心苦しかった。


「とりあえず美琴に連絡だけ入れて、その間家で待ってたらどうかな?思い出してすぐに帰ってくるかもしれないし」

「……」

「今日猛暑でしょ?少しでも涼んでいって」


身を引いて中へ促すように腕を伸ばせば、千晃はため息混じりに分かったと言って中に入った。

リビングに通してソファにかけてもらい、冷たいタオルと一緒に麦茶も出した。


「美琴と連絡つきそう?」

「既読にもならねえ」

「そっか…わざわざ来てもらったのにごめんね」

「和奏が謝る事じゃねえだろ」


テーブルに置いた麦茶を一気に飲み干し、暑いと愚痴りながら千晃はタオルで首元を拭いた。




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