苦くも柔い恋


「美琴とは何の約束してたの?」

「課題で分かんねえところ教えろって。教師にでも聞けっつったのに聞きやしねえ」

「千晃の教え方が上手いからじゃないかな」


くすくすと笑いながら言い、麦茶を追加で継ぎ足した。


「課題は終わった?」

「あんなん余裕だろ」

「早いね、さすが」


そう言って立ち上がり冷蔵庫に麦茶を戻しながら、こんなに千晃と話したのはいつぶりだろうと和奏はふと思った。


千晃とは小学校で初めて出会い、その後小中通して奇跡的にずっと同じクラスだったが、とりわけ親密な仲では決して無かった。

仲の良い友人も違っていたし、人気者で目立つ千晃に社交的とは言い難い和奏が容易に近付ける訳もなかった。

それに千晃の方も、鈍臭く陰気な自分を見ているとイライラするのだろう。

美琴とは悪態をつきながらも仲良く話すのに和奏を前にするといつもむっつりとして話も続かず、友好の意の欠片も感じない。


高校に入って初めてクラスが別れてからはそれに拍車がかかり、もう何ヶ月も顔を合わせていなかった。

けれど美琴とはクラスが違っていても密に連絡を取り合っているんだなと思うと、チクリと胸が痛んだ。



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